微睡まどろ)” の例文
海は紺碧の色をして、とろりと微睡まどろんでいる。濡れた肌にほどよく海風うみかぜが吹きつけ、思わずうっとりとなる。どうも、これは退屈だ。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「あゝ藻西太郎は罪無きに相違なし」と呟き「罪なき者が何故に自ら白状したるや」と怪み、胸に此二個の疑団ぎだん闘い、微睡まどろみもせず夜を明しぬ
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
しげくなって来た雨の音をきながら、心の穏やかでなかった庸三は、うとうと微睡まどろんだと思うと目がさめたりして、そこにわびしい一夜を過ごした。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
頭のしんがトロトロと微睡まどろんでるような、それでいて好奇心が胸一杯にはびこって、眼がえてくるような、何ともいえぬ妙な気持がしてくるのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
そうして身動き一つ出来ず、微睡まどろむことも出来ないままに、離れ離れになってもだえている私たち二人の心を、窺視うかがいに来るかのように物怖ろしいのでした。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私は思わずほっとしながら少し微睡まどろみかけたが、突然、隣室で病人がそれまで無理に抑えつけていたような神経的な咳を二つ三つ強くしたので、ふいと目を覚ました。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
エホバは汝の足の動かさるるをゆるし給わず、汝を護る者は微睡まどろみ給うことなし。(詩編一二一の四)
エホバはなんじの足のうごかさるるをゆるしたまはず、汝をまもるものは、微睡まどろみたまふことなし、よ、イスラエルを守りたまふものは、微睡むこともなくねぶることもなからん。
彼は全身微睡まどろみながら、覚めかかった心をじっと、その或物へ集中した。
田原氏の犯罪 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
と夕食後一時間ばかり微睡まどろむことは棚へ上げて、大いに主張した。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ある時はドオデェと共にプロヷンスの丘の日向ひなた微睡まどろみにけり
和歌でない歌 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
稚児はすでに熟睡うまいして、イワンも微睡まどろみはじめたり。
あるひはわが微睡まどろむ家の暗き屋根を
わがひとに与ふる哀歌 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
たゆげにも微睡まどろむここち。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
四時喧鬧の絶えることない繁劇なる大都会も、しばし微睡まどろみかける時がある。さる外国の作家は、こういう時刻を「大都会の時間外オオル・ドウール・ド・グラン・ヴィル
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
とろとろと微睡まどろむかと思うと、お増はふとかしましい隣の婆さんの声におびやかされて目がさめた。お増は疲れた頭脳あたまに、始終何かとりとめのない夢ばかり見ていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
此の時は先刻茲を去ってから既に五時間も経って居る、余は卓子に凭れてわずかに卅分ほど微睡まどろんだ積りだけれど四時間の余眠ったと見える、頓て叔父の室に入ると
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
夜伽に疲れた私は、病人の微睡まどろんでいる傍で、そんな考えをとつおいつしながら、この頃ともすれば私達の幸福が何物かに脅かされがちなのを、不安そうに感じていた。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
……何かが眼を見張っている、何かが静に微睡まどろんでいる。
過渡人 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)