びき)” の例文
ゆうべ一しょに泊るはず小金こがね奉行が病気びきをしたので、寂しい夜寒よさむを一人でしのいだのである。そばには骨の太い、がっしりした行燈あんどうがある。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
わたしが妻籠つまごの青山さんのお宅へ一晩泊めていただいた時に、同じ定紋じょうもんから昔がわかりましたよ。えゝ、まるびきと、木瓜もっこうとでさ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
自分もさっそく堕落の稽古けいこを始めた。南京米ナンキンまいも食った。南京虫ナンキンむしにも食われた。町からは毎日毎日ポンびき椋鳥むくどりを引張って来る。子供も毎日連れられてくる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ぽんびきと云うのか、源氏というのかよく知らぬが、とにかく怪し気な勧誘者を追払うために、わたくしは口から出まかせに吉原へ行くと言ったのであるが、行先のさだまらない散歩の方向は
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
客は定紋の暗合に奇異な思いがすると言って、まだこのほかに替え紋はないかと尋ねる。まるみっびきがそれだと答える。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そんな事とは知らずに、大方ポンびきの言いなりしだいになって、引張られて来たんだろう。それを君のために悲しむんだ。人一人を堕落させるのは大事件だ。殺しちまう方がまだ罪が浅い。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
行列のさきに押し立てたのは救民と書いた四はんはたである。次に中に天照皇大神宮てんせうくわうだいじんぐう、右に湯武両聖王たうぶりやうせいわう、左に八幡大菩薩はちまんだいぼさつと書いた旗、五七のきりに二つびきの旗を立てゝ行く。次に木筒きづゝが二ちやう行く。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
この奇遇のもとは、妻籠と馬籠の両青山家に共通な木瓜もっこうと、丸に三つびきの二つの定紋からであった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)