引釣ひきつ)” の例文
引釣ひきつる眉、ギラギラと死の苦痛を映す、血みどろの頬も唇も痙撃して、綺麗な歯並が、締木にかけたようにギリギリと鳴ります。
芳年写生帖 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「いや、そうでない、そうでない!」と、小平太はさも苦しそうに顔面神経を引釣ひきつらせながら、ようよう口を切った。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
僧侶らしい顔もあった。皆の顔は苦痛のために、眼は引釣ひきつり、口はゆがみ、唇や頬には血が附いていた。そこからは嵐のような呻吟うめき叫喚さけびれていた。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
目こするに、さっさとまげに取揚げられた内儀さんの頭髪あたまは、が所々引釣ひきつるようで、痛くて為方しかたがなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
前の日まで、お房が顔の半面は痙攣けいれんの為に引釣ひきつったように成っていたが、それも元のままにかえり、口元も平素ふだんの通りに成り、黒い髪は耳のあたりをおおうていた。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
顔の筋肉をヒクヒクと引釣ひきつらせながら、涙をダラダラと流して男爵の顔を見上げた。
老巡査 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
武士さむらい這奴しゃつの帯の結目ゆいめつかんで引釣ひきつると、ひとしく、金剛杖こんごうづえ持添もちそへた鎧櫃よろいびつは、とてもの事に、たぬきが出て、棺桶かんおけを下げると言ふ、古槐ふるえんじゅの天辺へ掛け置いて、大井おおい、天竜、琵琶湖びわこも、瀬多せた
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
始めて見た右半面は、左半面の玲瓏とした美しさに似ず、赤黒く焼けただれて、見る眼も恐ろしい引釣ひきつりだらけの顔だったのです。
猟色の果 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
頬の肉をヒクリヒクリと引釣ひきつらせながら、哀願するように女将の顔を見上げた。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その百鬼夜行の図にありそうなグロテスクな顔が、夕日を一杯に受けて、歌のメロデーのままに歪み、引釣ひきつり、むせび、泣くさまは、想像も出来ない不思議な見物です。
焔の中に歌う (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
顔も苦悩に引釣ひきつって、見る影もなく変って居りましたが、動物蛋白の中毒は、猛烈な症状を呈すると言いますから、専門家が二人で診た以上、素人しろうとの我々には何んにも言うことはありません。
死の舞踏 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
カッと大きい眼を見開くと引釣ひきつった凄い顔になります。
音波の殺人 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)