建札たてふだ)” の例文
かの新聞で披露ひろうする、諸種の義捐金ぎえんきんや、建札たてふだひょうに掲示する寄附金の署名が写実である時に、これは理想であるといってもかろう。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
トラックは、それからしばらく走ったが、やがて「防空壕アリ」と建札たてふだのあるビルディングのところまで来ると、ぴたりと停った。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたしは「龍」と云ふ小説を書いた時、「虫の垂衣たれぎぬをした女が一人ひとり建札たてふだの前に立つてゐる」と書いた。そののち或人の注意によると、虫の垂衣たれぎぬが行はれたのは、鎌倉時代以後ださうである。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
須磨すまでちょっと町を歩いて、市の防火宣伝の建札たてふだつじに立っていたのに注目されたり、人形や菓子の並んでいる店や、魚屋や市場のまえに立ち止まってもの珍しそうにそれを眺められました。
うれしやな、ああさん、と駆けよったのが、あの、ほの白い松の根の建札たてふだや、とにい、建札が顔に見えるようやったら、曝首さらしくびじゃが、そらほどの罪……を、また犯いたぞ。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
煉瓦れんがなどが、ボールほどの大きさにくだかれ、天井裏てんじょううら露出ろしゅつし、火焔かえんに焦げ、地獄のような形相ぎょうそうていしていたが、その他の町では、土嚢どのうの山と防空壕の建札たてふだと高射砲陣地がものものしいだけで
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
鼠小僧ねずみこぞう治郎太夫ぢろだいふの墓は建札たてふだも示してゐる通り、震災の火事にも滅びなかつた。赤い提灯ちやうちん蝋燭らふそく教覚速善けうかくそくぜん居士こじがくも大体昔の通りである。もつとも今は墓の石を欠かれない用心のしてあるばかりではない。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
の形したるおおいなる沼は、みぎわあしと、松の木と、建札たてふだと、そのかたわらなるうつくしき人ともろともにゆるを描いて廻転し、はじめはおもむろにまはりしが、あとあと急になり、はやくなりつ
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)