帳場格子ちょうばごうし)” の例文
「ア、お帰りで」折よく、帳場格子ちょうばごうしへ投げこまれた飛脚包ひきゃくづつみを持ちながら、和平がそこへ送りに出ると、目早く万吉がひとみを光らせて
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帳場格子ちょうばごうしからながめた向かいの下駄屋げたやさんもどうなったか、今三越みつこしのすぐ隣にあるのがそれかどうか自分にはわからない。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その木材の蔭になって、日の光もあからさまには射さず、薄暗い、冷々ひやひやとした店前みせさきに、帳場格子ちょうばごうしを控えて、年配の番頭がただ一人帳合ちょうあいをしている。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちょうどうまい折だから、椅子から立ち上がるや否や、帳場格子ちょうばごうしの方をふり返って見た。けれども格子のうちには女も札も何にも見えなかった。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お島は気骨の折れる子持の客の帰ったあとで、気憊きづかれのした体を帳場格子ちょうばごうしにもたれて、ぼんやりしていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
伊勢屋とした紺暖簾こんのれんの見える麩屋町のあたりは静かな時だ。正香らが店の入り口の腰高な障子をあけて訪れると、左方の帳場格子ちょうばごうしのところにただ一人留守居顔な亭主を見つけた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
帳場格子ちょうばごうしの後へ坐りましたが、さあここ二日の間に自分とお敏との運命がきまるのだと思うと、心細いともつかず、もどかしいともつかず、そうかと云って猶更なおさらまた嬉しいともつかず
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
橘屋たちばなや若旦那わかだんな徳太郎とくたろうも、このれいれず、に一は、はんしたように帳場格子ちょうばごうしなかからえて、目指めざすは谷中やなか笠森様かさもりさまあか鳥居とりいのそれならで、あかえりからすっきりのぞいたおせんがゆきはだ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
高座こうざ右側みぎわきには帳場格子ちょうばごうしのような仕切しきりを二方に立て廻して、その中に定連じょうれんの席が設けてあった。それから高座のうしろ縁側えんがわで、その先がまた庭になっていた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると御尻おしりがぶくりと云った。よほど坐り心地ごこちが好くできた椅子である。鏡には自分の顔が立派に映った。顔のうしろには窓が見えた。それから帳場格子ちょうばごうしはすに見えた。格子の中には人がいなかった。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)