帰宅かえ)” の例文
旧字:歸宅
いまにも、あの元気な顔で、最後の朝、出がけに言ったように、安房屋の煮豆でも提げて、ぶらぶら帰宅かえって来そうな気がしてならない。
午後三時過ぎて下町行の一行はぞろぞろ帰宅かえって来た。一同が茶の間に集まってがやがやと今日の見聞を今一度繰返して話合うのであった。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それで、医師の合田氏は、これはいけないと非常な丹精をしてくれまして、夜も帰宅かえらず、徹宵てっしょう附き添い、薬も自身せんじて看護してくれられました。
手をつないだ座敷着のおんなたちがつまを高くあげて彼の前を通りすぎた。万八楼の小提灯が、遅く帰宅かえ料理番いたまえの老人を、とぼとぼと河岸かしづたいに送って行く。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帰宅かえって因果を含めたのさ」「え、誰にだえ、お父っつぁんにか?」「じじく玉なんかが役立つかい。可愛い可愛い女房にさ」「殺生な野郎だ、叩き売ったな」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
親譲りの山も林もなくなりかゝってお吉心配に病死せしより、としわずかとおの冬、お辰浮世のかなしみを知りそめ叔父おじ帰宅かえらぬを困り途方とほうに暮れ居たるに、近所の人々
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「オヤ、うお帰宅かえりになったな」
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
その帰途かえり、近所の町組詰所へ立ち寄って、異な物を銜えた宿無犬のことを聞き、もしやと思って急いで帰宅かえってみると、案の定
そうするとある日、僕が学校から帰宅かえって見ると、今井の叔父さんが来ていて父上も奥の座敷で何か話をしてござった。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
腕力ちからの欲しい若者達が少しの効験しるしでも身に受けたいと、夜昼境内へやって来ては、力柱へ体を打ち付け帰宅かえる時には多少なりとも、賽銭を投げて行ったものだが、き易いのは凡夫の常
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その壁辰が帰宅かえって来た——のはいいが、一自分を見るより、つと血相を変えて、いま眼前に立ちはだかったまんまだから、すねに傷持つ身
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
大急で帰宅かえって土間にどしりと俵を下した音に、泣き寝入ねいりに寝入っていたお源は眼を覚したが声をださなかった。そして今のは何の響とも気に留めなかった。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
その宗七の留守中に、女房お多喜が富ヶ岡八幡から拾って来た美しい狂女を見て、三国ヶ嶽から帰宅かえって来た宗七、持前の頓狂な大声で、叫んだものだ。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この夜自分は学校の用で神田までゆき九時頃帰宅かえって見ると、妻がたすく背負おぶったまま火鉢の前に坐ってあおい顔というよりかすごい顔をしている。そして自分が帰宅かえっても挨拶あいさつも為ない。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
何のたしにもなるまいが小耳に挾んで来た、藤吉より一足先に帰宅かえっていた彦兵衛は、こう言って伸びをした。
夜更けて帰宅かえる金貸し老爺、何しに町筋を外れて木槌山のかげへ立寄ったろう? ほかで射殺してここへ運んだものか。それにしては提灯などが落ちているのが呑み込めない。
お高は、若松屋惣七が、まだ帰ってきていなければいいと思って、いそいで帰宅かえった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そして、庄公は帰宅かえってくる。必ず、にこにこ笑って、かえってくる!
その、世の中に金以外、女に用のないはずの文珠屋佐吉は、先日旅に出て帰宅かえってからというものは、めっきり味気ない顔つきで、ことに今日は、じぶんの高札を見てすっかり腐ってしまったと言う。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)