小法師こぼし)” の例文
腕のつけ根に起き上り小法師こぼしの喰いついた形、みにくい女の顔の形……見なれきったそれらの奇怪な形を清逸は順々に眺めはじめた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「ほほ、ほほほほほ。お酒が毒になッて、おたま小法師こぼしがあるもんか。ねえ此糸さん。じゃア小万さん、久しぶりでお前さんのお酌で……」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
=でんでん太鼓にしょうの笛、起上り小法師こぼし風車かざぐるま==と唄うを聞きつつ、左右に分れて、おいおいに一同入る。陰火全く消ゆ。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その一例を言えば、玩具おもちゃの「起き上り小法師こぼし」を材料は手前持ちで千個作って、得る所の賃銀はわずかに壱円二十銭です。
婦人指導者への抗議 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
しかもなお天部あまべ小法師こぼしと称するものは、禁裏御所のお庭掃除のお役をつとめておりました。この小法師は後には蓮台野部落や、大和の部落から出ております。
なんてことになっちゃあじつもっておたまり小法師こぼしもありませんので、つい失礼——さあ、開きました。
揃ひの浴衣をきた町内の若い者からやつと足の運べる子供までが向ふ鉢巻にかひがひしく鬱金うこんの麻襷をかけ——私はあの鈴だのおきあがり小法師こぼしだのをつけた麻襷が大好きである。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
勘「この阿魔ふてえあまだ、大金を出して抱えて来たものを途中から逃げさせておたま小法師こぼしがあるものか、オイとっさん、此奴こいつのいう事アみんな嘘だ、おめえだますんだぜ、ハヽヽヽヽ」
「おやおや、これはけしからぬ。おまえこししたからこそ、あんなざまになったんじゃないか、それをまつつぁん、あたしにすりつけられたんじゃ、おたまり小法師こぼしがありゃァしないよ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
私は表向き遠島になった日蔭者、私の名では起上がり小法師こぼし一つ彫れません。それにせっかく売り込んだ倅の名——二代目一刀斎は初代に優る名人——という名も惜しんでやりとうございます。
誰ひとり異存があっておたまり小法師こぼしがあるもんか、なあおい、みんな……棒っ切れでも、心張棒しんばりぼうでもかついでって、先生に刃向かうやつらをたたきのめしてしめぇ
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
犬張子いぬはりこが横に寝て、起上り小法師こぼしのころりとすわった、縁台に、はりもの板を斜めにして、添乳そえぢ衣紋えもんも繕わず、あねさんかぶりをかろくして、たすきがけの二の腕あたり、日ざしに惜気おしげなけれども
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おめえさんはどんなにうでが立つか知らねえが、先様だって、わら人形やえ物じゃアあるめえし、そう口で言うように、立派なお侍さんの首がスパスパころがっておたま小法師こぼしがあるもんか
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)