小提灯こぢょうちん)” の例文
濡れた笠と合羽を脱ぎ捨てて、また革袋から小提灯こぢょうちんを取り出し、床に立てた蝋燭をそれにうつして一通り社殿の中を見廻しました。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
上杉家の国家老、千坂兵部ちさかひょうぶは、茶屋の若主人や、なかから送ってきた女たちの小提灯こぢょうちんにかこまれて、ひょろりと、手拍子に
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
植物採集に持って行くような、ブリキの入物に花櫚糖かりんとうを入れて肩に掛けて、小提灯こぢょうちんを持って売って歩くのである。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
夫の帰らぬそのうちと櫛笄くしこうがいも手ばしこく小箱にまとめて、さてそれを無残や余所よそくらこもらせ、幾らかの金懐中ふところに浅黄の頭巾小提灯こぢょうちん闇夜やみよも恐れず鋭次が家に。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼は小提灯こぢょうちんを持っている、「衣笠」を出るときに借りたもので、白地に小さく笠の紋がちらしてあった。——幅十尺ばかりの掘割があって、そこを渡ると武家屋敷になる。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しばらくして小提灯こぢょうちん火影ほかげあかきが坂下より急ぎのぼりて彼方かなたに走るを見つ。ほどなく引返ひっかえしてわがひそみたる社の前に近づきし時は、一人ならず二人三人みたり連立ちてきたりし感あり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
春泥しゅんでいに映りすぎたる小提灯こぢょうちん
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
と、緒を直した草履をはき、小提灯こぢょうちんを手に持って、その男も、ピタピタと弦之丞について歩きだした。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兵馬は小提灯こぢょうちんをともして、ひとり廊下を歩いて、例の広い部屋部屋の外を通ってみました。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
木戸には桜の造花つくりばなひさしにさして、枝々に、赤きと、白きと、数あまた小提灯こぢょうちんに、「て。」「り。」「は。」と一つひとつ染め抜きたるを、おびただしくつるして懸け、夕暮には皆ひともすなりけり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夕立のあとの闇夜やみよ小提灯こぢょうちん
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
なお一段と余情のあるのは、日が暮れると、竹の柄の小提灯こぢょうちんで、松の中のこみちを送出すのだそうである。小褄こづまの色が露にすべって、こぼれ松葉へ映るのは、どんなにかなまめかしかろうと思う。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
兵馬はこの御殿の最も奥の間へ参入して、旅の荷物をそこに打ちおろし、その中から小提灯こぢょうちん、火打よろしく取り出して、早くも提灯に火を入れて、それをかざして間毎間毎を調べてみました。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
小稲、小幾、重子など、狂言囃子ばやしの女ども、楽屋口より出できたりて、はらりと舞台に立ちならべる、大方あかり消したれば、手に手に白と赤との小提灯こぢょうちん、「て」「り」「は」と書けるをひっさげたり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)