寝椅子ねいす)” の例文
あいにくオリガ・イワーノヴナは留守だったので、私たちの主人公は客間の寝椅子ねいすに寝そべって、彼女の帰宅を待ち受けることになった。
小波瀾 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
とう寝椅子ねいすに一人の淡青色たんせいしょくのハアフ・コオトを着て、ふっさりとかみかたへ垂らした少女が物憂ものうげにもたれかかっているのを認め、のみならず
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
日光室のガラスの中では、朝の患者たちがとう寝椅子ねいすに横たわって並んでいた。海は岬に抱かれたまましとやかに澄んでいた。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
一日一杯寝椅子ねいす安臥あんがしている病院生活の間中、寝てもめてもただうつらうつらと、日となく夜となく頭の中で私にほほえみかけてくるものは
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
「あなた。ほらごらんなさい。だから庭へ寝椅子ねいすをだして、おやすみなさってはいけませんと申したのに。これからは地下室でおやすみになるんですよ」
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ちょっと見ては何処の国の型かも判らない大型で彫刻のこんだ寝椅子ねいすが室の一隅に長々と横はり、その傍の壁を切ったような通路から稍々やや薄暗い畳敷きの日本室があり
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そうして、支那間の寝椅子ねいすをお座敷の縁側ちかくに移して、お母さまのお顔が見えるように腰かけた。やすんでいらっしゃるお母さまのお顔は、ちっとも病人らしくなかった。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その窓の下にも真紅な天鵞絨を張った寝椅子ねいすをはじめ種種いろいろの椅子がきれいに置いてあった。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
巨大な寝椅子ねいすに横になり、コロコロコロコロと音を立て、精巧な水煙草みずたばこ吹管すいかんをくゆらしているのはイスラエルのお町で、この前に椅子に腰かけているのは、南蛮屋の主人でお町の同志
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
甲板の寝椅子ねいすで日記を書いていると、十三四ぐらいの女の子がそっとのぞきに来た。黒んぼの子守こもりがまっかな上着に紺青こんじょう白縞しろじまのはいったはかまを着て二人の子供を遊ばせている。黒い素足のままで。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
よるなり。二人、臨終りんじう寝椅子ねいすに青み、むかひゐて
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そこで酒田は寝椅子ねいすからむっくり起上って、婆やと共に勝手の方へ行く。電話機は勝手の廊下の隅にあって、そこは暗いので、婆やさんは電灯を急いでりかえなければならなかった。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
顔にふるる芭蕉ばしょう涼しやとう寝椅子ねいす
涼味数題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
X号は腹を立てて、寝椅子ねいすの上にころがり、ふうふうぶつぶついうのだった。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)