家禽かきん)” の例文
この人のやしき屡々しばしば家禽かきんを何者にか盗まれる。土地の者はこれをピキシーと云う怪物の仕業だと昔から唱えていたが、講師はこれを信じなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
猟の獲物の鳥獣や、家禽かきんや、その他の珍味が、村々には景気よく出まわり、食品店、肉屋、果物屋には人がつめかけていた。
駅馬車 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
農婦はその足もとに大きな手籠てかごを置き家禽かきんを地上に並べている。家禽は両あしを縛られたまま、赤い鶏冠とさかをかしげて目をぎョろぎョろさしている。
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
少なくとも、その窓の下の狭い庭はあらゆる家禽かきんや家畜で一杯になっていた。七面鳥や牝鶏が数えきれないほどいた。
ちょうど、現在の私の宅と同町内で、その頃長寿斎ちょうじゅさいという打物うちものの名人があった、その横丁を曲がって真直突き当った家で、いろいろ家禽かきんが飼ってあった。
農家からは、水車の音や、家禽かきんの鳴声や、子供らの嘻戯きぎの声が響いていた。彼はザビーネの小さな娘を見つけ、その走るのを見、その笑声を聞き分けた。
そこで、家禽かきんが本当の鳥と並び存する以上は、クラシックの悲劇も古代悲劇と並び存していけないはずはない。
かげで、平和な家禽かきん一同をいっときホッとさせる。ところが、彼女はまたやって来る。前よりもいっそうやかましく、騒々しい。そして、無茶苦茶に地べたを転げ回る。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
それへ家禽かきんか牛肉のスープで汁気たっぷりに煮込んだ栗を混ぜる。こうして出来た詰物を臓腑を出したあとの鵞鳥の腹の中に詰め口を糸でくくり金串にさして汁で湿しながら焼く。
食魔に贈る (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
まずなま乳汁ちちが飲めるようになり、家禽かきんが毎日卵を生む、これほどけっこうなことはないのだが、さて一とくあれば一しつありで、乳汁や卵ができると急に砂糖の需要じゅようがはげしくなる
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
家の前には広場の様な処が有って、野生の草花が咲いたり、家禽かきんなどが群れて居る。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
從姉妹いとこたちも、まだ母親の處に呼ばれてゐなかつた。イライザは、帽子をかぶり、温かい庭着ガーデン・コートを着て、彼女の家禽かきんの處に行つてをやらうとしてゐた。その仕事を彼女は氣に入つてゐた。
フスマは現在は家禽かきんなどにやってしまうけれども、以前はこの中からいろいろの入用なものを取った。その一つはすなわち麩、その残りの粗悪品からは、のりにする生麩(しょうふ)ができた。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
緑の樹蔭こかげに掩はれた村、肥えて嬉々きゝとして戯れてゐる牧獣や家禽かきんの群、薫ばしい草花に包まれた家屋、清潔に斉然きちんと整理された納屋や倉、……よみがへつた農業! 愚昧ぐまいな怠慢な奴隷達から開放された
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
また細かく切れば家禽かきんの食物にいい。き砕けば角のある動物にいい。その種をまぐさに混ぜて使えば動物の毛並みをよくする。根は塩と交ぜれば黄色い美しい絵具えのぐとなる。
まめに働く女房も、家政を見るやら、家禽かきんの世話をするやら、いろいろと仕事があった。