定宿じょうやど)” の例文
六条坊門の白拍子しらびょうし翠蛾すいがの家は、吉次の定宿じょうやども同じようになっていた。翠蛾の妹は潮音という。彼は潮音の檀那だんなであった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
九段坂上にある「筑紫館」は、博多出身の者が経営していて、九州から上京する人たちの定宿じょうやどになっているようだった。和洋折衷の三階建である。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
あの氷垣という男は毎年一度ずつはここらへ廻って来て、曽田屋を定宿じょうやどとしているので、姉とも妹とも関係しているらしいという噂を立てられている。
怪獣 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
蚤が多いから、ちかよらぬように、と助七から警告される。鉱山へ働きに行く人たちの定宿じょうやどだという。ただし無人。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
「旅籠屋は定宿じょうやどがあれば、それに越したことはないが、初めてのところでは、なるたけ家作りのよい賑やかな宿屋へ泊ることだ、少々高くてもその方が得だ」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この温泉旅館の井菊屋と云うのが定宿じょうやどで、十幾年来、馴染なじみも深く、ほとんど親類づき合いになっている。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
本陣の鍋屋三右衛門なべやさんえもん定宿じょうやどで、銕太郎も少年時代から宿の者たちを知っていたが、泊って三日めの夜、藩主から慰労の酒肴しゅこうが出、目見めみえ以上の者が集まって酒宴をするうちに
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
半蔵らがめざして行った十一屋という宿屋は両国りょうごくの方にある。小網町こあみちょう馬喰町ばくろちょう、日本橋数寄屋町すきやちょう、諸国旅人の泊まる定宿じょうやどもいろいろある中で、半蔵らは両国の宿屋を選ぶことにした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
安旅籠やすはたごの二階などに見られる、五六月のこうになるまで、旅客のあとのすっかり絶えてしまうこの町にも、県の官吏の定宿じょうやどになっている浜屋だけには、時々洋服姿で入って来る泊客があった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
奚山けいざん高密こうみつの人であった。旅に出てあきないをするのが家業で、時どき蒙陰もういん県と沂水ぎすい県の間を旅行した。ある日その途中で雨にさまたげられて、定宿じょうやどへゆきつかないうちに、夜がけてしまった。
阿繊 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「少し道草をしてあとから追うから、先へ行って、音羽の筑波屋つくばやという定宿じょうやど——おれの名をいやあ心得ているから、裏二階のいい座敷を取って待っていてくんな」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
享保きょうほう三年の冬は暖かい日が多かったので、不運な彼も江戸入りまでは都合のいい旅をつづけて来た。日本橋馬喰町ばくろちょうの佐野屋が定宿じょうやどで、しゅうと家来はここに草鞋わらじの紐を解いた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「どうして、親類どころか、定宿じょうやどもない、やはり田舎ものの参宮さ。」
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
諸国のお客様の定宿じょうやどの多い馬喰町の通りであります。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「おいよせ、定宿じょうやどがあるんだ」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
御存知の通り、麹町の三河屋は屋敷万歳の定宿じょうやどで、毎年五、六人はきっと巣を作っていますから、念のために其処そこへも行ってみると、案のじょうそこにもう五人ばかり来ていました。
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
定宿じょうやどかえ」
半七捕物帳:28 雪達磨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)