安普請やすぶしん)” の例文
安普請やすぶしんの古家ですから、年造は何の苦もなしに台所の雨戸をこじ明けてはいる。例のごとく、大吉は外で見張り番を勤めていました。
半七捕物帳:55 かむろ蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
土地の誰かが、鉄道の開通した当座に、長い逗留とうりゅうの客を当て込んで建てた家であった。簡易な別荘風の安普請やすぶしんであった。
機関車 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
その通りだ、安普請やすぶしんをするとその通りだ。原などはあんまり経費がかかり過ぎるなんて理窟りくつを並べたが、こういう実例が上ってみると文句はあるまい。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
なお又、風の勢も強かったには違いないが、たまたま泊っていた渋谷の家が安普請やすぶしんであったことが、その勢を五倍にも十倍にも感じさせたのであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ここも、急ごしらえの安普請やすぶしんである。落ちつくに堪えない部屋に、俗悪な絵だの花だのを、無智に飾りたててある。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こんな安普請やすぶしんの家だもの、二階からだつて出られるぢやないか。少し身輕なものなら、軒の下から這ひ上がるのも、大して骨の折れる藝當ぢやない」
元来下宿屋に建てたうちだから、建前は粗末なもので、ややもすると障子が乾反ひぞって開閉あけたてに困難するような安普請やすぶしんではあったが、かたの如く床の間もあって
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
小さな新興しんこうの港だ。カッタロ港とは全然おもむきのちがった港だった。そのかわり、町をうずめている家々は、見るからに安普請やすぶしんのものばかりであった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この再建補修も決して堅牢けんろうなものでなく、伽藍の配置だけを往時に復して、他はすべて小ぢんまりと安普請やすぶしんしたことはいまの法輪寺をみれば明らかであろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
新築と云っても、下宿屋の安普請やすぶしんのことですから、天井には到る所に隙間があります。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「てめえどもは、御覧のとおり、安普請やすぶしんのバラック旅館にはちがいないのですがア。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
すぐ横町の路次のなかに、このごろ新しく建てられた、安普請やすぶしんの平屋がそれで、二人はまだ泥壁どろかべ鋸屑かんなくずの散っている狭い勝手口から上って行くと、台所や押入れの工合を見てあるいた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
軒にまつと云う電燈の出た、沓脱くつぬぎの石が濡れている、安普請やすぶしんらしい二階家である、が、こうした往来に立っていると、その小ぢんまりした二階家の影が、妙にだんだん薄くなってしまう。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
欄間も、壁も、ふすまも、古く、どっしりして、安普請やすぶしんでは無い。
新樹の言葉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その筋向うに瓦斯ガス器具一切を売る安普請やすぶしんの西洋館がある。
豆腐買い (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
書生の私にはまだ新らしい座敷の木口などが安普請やすぶしんの借家のやうには見えなかつたので、これは事に依ると京都を永住の地と定めて家を建てられたのかも知れないと、さう思つたくらゐであつた。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)