女夫めおと)” の例文
たとえば女夫めおと岩という二つの岩の屹立きつりつしている所があると、それに接続している数町歩の田畑または村里の字をも女夫岩という。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
女夫めおとの約束代わりに預けたたいせつな片雛が、こんなまがいものとすり替えられているは、とりもなおさず生きた夫をすり替えたも同然じゃ。
湯滝は白骨にもありますが、あれよりズット大きい——といって、渓間を導いて、兵馬を二つの滝が女夫めおとのように並んでいるところへ連れて来ました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おまけに、ぜんざいを註文ちゅうもんすると、女夫めおとの意味で一人に二杯ずつ持って来た。碁盤ごばんの目の敷畳に腰をかけ、スウスウと高い音を立ててすすりながら柳吉は言った。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「げに歌人、詩人といふは可笑おかしきものかな。蝶二つ飛ぶを見れば、必ず女夫めおとなりと思へり。ねぐらかえ夕烏ゆうがらすかつて曲亭馬琴に告げていわく、おれは用達ようたしに行くのだ」
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「女房のふところには鬼がむかじゃが栖むか」と云う文句を聞くと、それがいかにも性慾的にかけ離れてしまった女夫めおとの秘事を婉曲えんきょくながら適切に現わしているのに気づいて
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「心も晴るる夜半の月、田面たのもにうつる人影にぱつと立つのは、アレ雁金かりがね女夫めおとづれ。」これは畢竟ひっきょう枯荻落雁の画趣を取って俗謡に移し入れたもので、寺門静軒てらかどせいけんが『江頭百詠』の中に
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
小坂部どのは正直におのれの恋を打ち明けて、采女と女夫めおとにしてくれとお身に嘆いた。お身もそれを聞き届けた。その口の乾かぬうちに、姫を捉えようとする、采女を打ち果たそうとする。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
女夫めおとして住持酔はしぬ花に鐘 几董
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
女夫めおと約束固めても
諸国に女夫めおと石があれば女夫木があり、子持石があれば子持木があるごとく、石の代りに天然の樹木を用いることはきわめて普通の例である。
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
安珍清姫恨みの恋路、坂田の金時女夫めおと相撲すもう、牛若丸はてんぐのあしらい、踊れといえば、そら、あのとおり、——牛若丸はてんぐの踊りとござい
「おまえも藻にはきつい執心しゅうしんじゃが、末は女夫めおとになる約束でもしたのかの」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
安芸あきの宮島の女夫めおと烏は、一年に一度しか祭をけぬことになっているが、時々は七浦回りの信心者の船が供えものをする。
女夫めおとの約束すれば一生口をつぐまぬものでもないと、父をおどし、わたくしをお責めなさりましたのが、運のつき、父の悪業ひたかくしに隠そうと
都の公家衆くげしゅうに奉公したもの、縁あってこの夜叉王と女夫めおとになり、あずまへ流れ下ったが、育ちが育ちとて気位高く、職人風情に連れ添うて、一生むなしく朽ち果つるを悔みながらに世を終った。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これは奥州南部兜明神かぶとみょうじんだけの山奥でいけどりましたる女夫めおとぐまでござい。右が雄ぐま、左が雌ぐま。珍しいことには、人のことばをよく聞き分けまする。
二本ふたもとの桂の立木ありて、その根よりおのずから清水を噴き、末は修禅寺にながれて入れば、川の名を桂とよび、またその樹を女夫めおとの桂と昔よりよび伝えておりますると、お答え申し上げましたれば
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
約束誓言を堅く守らせる意味から男雛おびなの親王さまを分け与え、古島家そのもののほうにはこれまた行く末先の女夫めおとを誓い、うれしい契りの日のよきお輿入こしいれを一日も早かれと待ち願う意味から
玉琴 女夫めおとが祝言のさかずきは……命をちぢむる毒酒なりしか。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わらわが許して女夫めおとにしましょうぞ。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
女夫めおとふたりの札参り。
「藻と千枝まは女夫めおとじゃ」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)