天祐てんゆう)” の例文
半日山のなかをけあるいて、ようやく下りて見たら元の所だなんて、全体何てえ間抜まぬけだろう。これからもう君の天祐てんゆうは信用しないよ
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「東儀うじ、ごらんなさい、失策どころか、これこそ二人の苦節を哀れんだ、神の賜うた天祐てんゆうです。——この紙入れは塙郁次郎はなわいくじろうの所持品だ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「うらやましからう。だが、これは天祐てんゆうといふもので、いくら自分じぶん君達きみたちをいれてあげやうとしたところで駄目だめなんだ」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
天祐てんゆうを祈りますよ、椋島さん」大臣の幅の広いガッシリしたがギュッと、椋島技師の手を握りかえした。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
道子は降り続く雨を眺めて——この天気、天祐てんゆうっていうもんかしら…………少くとも私の悲観を慰めて呉れたんだから…………そう思うと何だか可笑おかしくなって独りくすくす笑った。
快走 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かかる鬼門破りの国が誠にめでたく、ますます天祐てんゆうを得て隆盛に向かうのは、鬼門を破っても災害がないということを証明しているではないか。鬼門の妄説は、大抵これにて分かるであろう。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
と托しておいた走り書の一通が、いまとなってみれば、天祐てんゆうだった。外部との唯一の連絡となり、光明ともなっている。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「せっかくは君の命令にって、せっかく来たに相違ないんだがね。この豆じゃ、どうにも、こうにも、——天祐てんゆうむなしくするよりほかに道はあるまいよ」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
怪我をしているものはあるが、生命いのちをおとしたものが一人もないのはまったく天祐てんゆうであった。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
混雑まぎれに、家来でも落したのか、牢の前に、さやを抜けた短刀が落ちていた。天祐てんゆうか、それがやっと手の届くところにある。萩乃はその晩、仮牢を破った。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ自分が主人に安井と同じ大学にいた事を、まだらさなかったのを天祐てんゆうのようにありがたく思った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女は、眼のまえをへだてている闇の古池を見、彼方かなた堅固けんごなる建物を眼に見ながらも、この機会と天祐てんゆうにたいして、だめだと思う気はすこしも出て来なかった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「危きにのぞめば平常なしあたわざるところのものをし能う。これ天祐てんゆうという」さいわいに天祐をけたる吾輩が一生懸命餅の魔と戦っていると、何だか足音がして奥より人が来るような気合けわいである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
火災はむしろ天祐てんゆうと先にいったが、食糧課員の調査表によると、出火前は、貯蔵精米が五百五十こく、玄米百十六石一とあって、一日の消費額二十九石として、今後
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そら、天気もだいぶよくなって来たよ。やっぱり天祐てんゆうがあるんだよ」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかるにあなたは北京府の富家ふかに生れ、かさねがさねの天祐てんゆうこうむっている。天運おのずから衆に超えているものです。——第三には、私は浅学、あなたはがく古今に通じておられる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こりゃ天祐てんゆうだ! そちにその間道かんどうがわかるとならば、ぜひとも一つたずねてくれ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは、まったく、御仏みほとけのお計いじゃ、これを天祐てんゆうといわずして何ぞや。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ただ、天祐てんゆういのっているのほかございませぬ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天祐てんゆうですなあ。お取換しましょう、私のと」
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)