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天眼鏡
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てんがんきやう
殿よツく
聞し
召し、
呵々と
笑はせ
給ひ、
余を
誰ぢやと
心得る。コリヤ
道人、
爾が
天眼鏡は
違はずとも、
草木を
靡かす
我なるぞよ。
名道人畏り、
白き
長き
鬚を
撫で、あどなき
顏を
仰向けに、
天眼鏡をかざせし
状、
花の
莟に
月さして、
雪の
散るにも
似たりけり。
何と、と
殿樣、
片膝屹と
立てたまへば、
唯唯、
唯、
恐れながら、
打槌はづれ
候ても、
天眼鏡は
淨玻璃なり、
此の
女、
夫ありて、
後ならでは、
殿の
御手に
入り
難し、と
憚らずこそ
申しけれ。