報酬むくい)” の例文
あらず、あらず、彼女かれは犬にかまれてせぬ、恐ろしき報酬むくいを得たりと答えて十蔵は哄然こうぜんと笑うその笑声はちまた多きくがのものにあらず。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
獄卒らうもり捕吏とりてとは、維新前まで、先祖代々の職務つとめであつて、父はその監督の報酬むくいとして、租税を免ぜられた上、別に俸米ふちをあてがはれた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それから、神樣は十分な報酬むくいを私たちに下さらうと、私たちの身體からたゞ靈魂が離れるのを待つてゐらつしやるのよ。
人に物を思わせたる報酬むくいはかくぞとののしりて、下枝が細き小腕こがいなを後手にじ上げて、いましめんとなしければ、下枝は糸よりなお細く、眼を見開きてうらめしげに
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はてをめざして飛びゆく生命いのちの短き旅を終へんためわれ世に歸らば、汝の詞報酬むくいをえざることあらじ。 三七—三九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
我図らずも十兵衛が胸にいだける無価の宝珠の微光を認めしこそ縁なれ、こたびの工事しごとを彼にいいつけ、せめては少しの報酬むくいをば彼が誠実まことの心に得させんと思われけるが
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
労働の報酬むくいが今来るのだ。うれしい筈。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一年ひとゝせの骨折の報酬むくいを収めるのは今である。雪の来ない内に早く。斯うして千曲川の下流に添ふ一面の平野は、宛然あだかも、戦場の光景ありさまであつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
げに見るに忍びざりき、されど彼女自ら招く報酬むくいなるをいかにせん、わがこの言葉は二郎のよろこぶところにあらず。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
何でもしたことには、それ相当の報酬むくいというものが、多くもなく、少なくもなく、ちょうど可いほどあるものだと、そう思ってろ! 可いか、お貞、……お貞。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
せめては少しの報酬むくいをば彼が誠実まことの心に得させんと思はれけるが、不図思ひよりたまへば川越の源太も此工事を殊の外に望める上、彼には本堂庫裏くり客殿作らせし因みもあり
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
の庭に盛上げた籾の小山は、実に一年ひとゝせの労働の報酬むくいなので、今その大部分を割いて高い地代を払はうとするのであつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
もし君が言わるるごとくば世には報酬むくいなくして人の愛を盗みおおせし男女はなはだ多しと、十蔵はいきまきぬ。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
中には雑踏ひとごみに紛れて知らない男をののしるものも有った。慾に目の無い町の商人は、かんざしを押付け、飲食のみくいする物を売り、多くの労働の報酬むくいを一晩になげうたせる算段をした。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何卒どうかして夫の愛を一身に集めたいと思ったからで……夫の胸に巣くう可恐おそろしい病毒、それが果して夫の言うように、精神の過労から発したのか、それとも夫が遊蕩ゆうとう報酬むくい
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
放蕩ほうとう報酬むくいサ」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)