坦途たんと)” の例文
白堊の夕日にきらめけるを望みては、其家にすめる少女をとめの美しきを思ひ、山巓に沈み行く一片の雲を仰ぎては、わが愁の甚だその行衞に似たるを嘆じ、一道の坦途たんと漸く其の古驛に達したるは
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
あだか四肢ししを以て匍匐ほうふくする所の四足獣にくわりたるのおもひなし、悠然いうぜん坦途たんとあゆむが如く、行々山水の絶佳ぜつくわしやうし、或は耶馬渓やまけいおよばざるの佳境かけうぎ、或は妙義山めうぎざんも三舎をくるの険所けんしよ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
ただちに西北に向ひて、今尚いまなほ茫々ぼうぼうたるいにしへ那須野原なすのがはられば、天はひろく、地ははるかに、唯平蕪ただへいぶの迷ひ、断雲の飛ぶのみにして、三里の坦途たんと、一帯の重巒ちようらん、塩原は其処そこぞと見えて、行くほどにみちきはまらず
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
に三斗のこめふて難路をあゆむも、つねに平然たることあたか空手くうしゆ坦途たんとを歩むが如し、しんに一行中の大力者なり、林喜作なるものすこしく病身なりしもうをるにたくみなり、皆各其人をたりと云つべし
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)