かたま)” の例文
旧字:
或る部分は分厚に葉が重り合つてまるくかたまつてしげつて居るところもあつた。或る箇所は全く中断されて居るのである。
私はしばらく指を唇にあてゝ、此黙つてゐ乍ら力み出す黒いかたまりに見入つた。何だが涙がそうつと込み上げて来た。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
彼はまた二三日前に人から聞いた鬼火ひとだまのことを思いだした。青い蛍火ほたるびかたまったような火の団りが電柱にぶっつかって、粉粉こなごなになったさまが眼の前に浮んで来た。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
投げ出した紙片かみと肉一片——毛髪の生えた皮肌はだの表に下にふっくらとした耳がついて、裏は柘榴ざくろのような血肉のかたまりだ。暑苦しい屋根の下にさっと一道の冷気が流れる。
「樹の根が崩れた、じとじと湿っぽい、赤土の色が蚯蚓みみずでもかたまったように見えた、そこにね。」
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今まではその芭蕉も唯黒いかたまりにのみ見えていたのが、その闇を破ってぱっと稲妻が光ると、唯黒い団りと見えていた芭蕉は、そうではなくって、長い葉を何枚となく大空に突出していて
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
その一かたまりの石段の間には、ごく狭い平地があって、人家の入り口になっていた。その平地ごとにクリストフは、よろめきながら息をついた。上のほうでは、塔の上にからすが飛び回っていた。
高浜虚子氏が以前なんかの用事で大阪に遊びに来た事があつた。その頃船場せんば辺の商人あきうど坊子連ぼんちれんで、新しい俳句に夢中になつてる連中は、ぞろぞろ一かたまりになつて高浜氏をその旅宿やどやに訪問した。
青い蛍火ほたるびかたまったような一団の鬼火ひとだまがどこからとなく飛んで来て、それが非常な勢いで電柱に突きあたった。あたったかと思うと、それが微塵みじんに砕けてばらばらと下におちた……。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)