囃子方はやしかた)” の例文
かつは主だったる有志はじめ、ワキツレ囃子方はやしかたまで打揃い、最早着席罷在まかりある次第——開会は五時と申すに、既に八時を過ぎました。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あゝ君は一つ囃子方はやしかたになり給へ。」遠野が道助に云つた。道助は漠然と微笑ほゝゑみながらバネのゆるんだ自働人形のやうに部屋の中を歩き廻つた。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
振事が眞面目であれば眞面目であるほど、人々の哄笑こうせうは、潮が去來するやうに、夜の空氣と、囃子方はやしかたの鳴物を壓して、どつ、どつと波打ちます。
銭形平次捕物控:315 毒矢 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
志村金五郎しむらきんごろうのワキで羽衣はごろもを舞った老公のすがたが、あざやかに橋がかりから鏡の間へかくれ、つづいて囃子方はやしかた地謡じうたいが静かに退いたあとである。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから仕手方シテかたを本位とする地謡じうたい囃子方はやしかた、狂言等に到るまで、同曲の荘厳と緊張味とを遺憾なく発揮し得なければ
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
役者は店の者や近所の者で、チョボ語りの太夫も下座げざ囃子方はやしかたもみな素人の道楽者を狩り集めて来たのであった。
半七捕物帳:03 勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
殊に囃子方はやしかたなどのやうやうに人ずくなになり行くを救はんとするのがその目的の主なるものであるさうな。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
さて、囃子方はやしかたの座がととのう。太鼓があり、つづみがあり、笛があり、しょう、ひちりきの類までが備わっている。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
重政がこの絵本にはその他なほ楽屋裏の新道しんみち編笠あみがさ深き若衆形わかしゅがたの楽屋入りを見せ、舞台のうしろに囃子方はやしかた腰かけて三味線きゐるかたわらに扮装せる役者の打語うちかたれるあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
囃子方はやしかたの六がふ新三郎は西洋料理屋に入つて、ライスカレーの註文をするのに
わたくしのお話も、その鼓くらべにかかわりがございます。お嬢さまは御存じないかも知れませんが、昔……もうずいぶんまえに、観世の囃子方はやしかた市之亟いちのじょうという者と六郎兵衛という者が御前で鼓くらべを
鼓くらべ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
囃子方はやしかたに新という者あり。宵よりでていまだ小屋にかえらざれば、それかと白糸は間近に寄りて、男の寝顔をのぞきたり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白象はくぞうに乗った、等身大の菩薩像は、見世物小屋の表の方、囃子方はやしかたの陣取った中二階の下あたりに据えてあります。
囃子方はやしかた音調ねしらべとともに、ゆらりと龍神は立った、足袋のつま先が上がる、すべるように踵がすすむ。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殊に余の困却したるは舞台と観客席との区域分明ならざる事なりき。演劇の幻想界と観客の現実界とは両花道りょうはなみち、チョボゆか囃子方はやしかた、その他劇場一般の構造によりて甚だしく錯雑せる事なりき。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
囃子方はやしかたの半助お百夫婦にもいろ/\訊ねて見ましたが、これは貧乏疲れのした中年者で、何んにも知らず
囃子方はやしかたの半助お百夫婦にもいろいろ訊ねてみましたが、これは貧乏疲れのした中年者で、何にも知らず
太夫元たゆうもと権次郎ごんじろう、竹乗りの倉松くらまつ囃子方はやしかた喜助きすけ、それに女が二三人、朝といっても、かなりが高くなっているのに、思い切って自堕落なふうを、ズラリと裏木戸に並べたものです。
八五郎は默つて梯子はしごを登ると囃子方はやしかたの中二階へバアと顏を出しました。
囃子方はやしかたの六助も、早くもこの様子を察して逃げてしまいました。