いかめ)” の例文
新字:
さういふことを餘程六ヶ敷むづかしい言葉を用ひて書くべきだ、さういふ窮屈を忍んで、決りきつたやうな眞面目さうな、いかめしさうな
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
セルの被布ひふを催促する爲めである。その洋服店と呉服店とは、いづれも高い西洋建てで、賑やかな街の兩角りやうかどを占領して、いかめしく分立してゐる。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
それをも顧みずに猶進めば、果して町の盡頭はづれとも覺しきあたりの右側に、高く石垣を築きおこしたるいかめしき門構もんがまへの家屋あり。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
母たる者の子にいかめしとみゆる如く彼我にいかめしとみゆ、きびしき憐憫あはれみあぢ苦味にがみを帶ぶるものなればなり 七九—八一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
一人は非常に背が高く、殆んどイングラム孃位に高く——それに非常に痩せて蒼白く、いかめしい顏付をしてゐた。彼女の樣子には何か禁欲的な風があつた。
一體私達の感情から云へば、七尺去つて師の影を踏まずと云つたやうな儒教的道徳は、先生をあまりに冷たくいかめしくする inhumane な道徳であつた。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
どの驛でも恐い顏の蒙古犬もうこいぬいかめしいコサツク兵や疲れた風の支那人やが皆私の姿をいぶかし相に見て居た。夕方に廣い沼の枯蘆が金の樣に光つた中に、數も知れない程水鳥の居る處を通つた。
巴里まで (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
主筆は、體格の立派な、口髭のいかめしい、何處へ出してもひけをとらぬ風采の、四十年輩の男で、年より早く前頭の見事に禿げ上つてるのは、女の話にかけると甘くなるたちな事を語つて居た。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
それから二時間ばかり經ツて、周三はひげり、頭髪をき、薄色のサツクコートで、彼としてはみがき上げた男振をとこぶりとなツて、そゝくさいかめしい勝見家の門を出て行ツた。無論お房の家へ出掛けたので。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
御縁の下にいかめしくつくばつてゐた事でございます。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
王者の如くインノチェンツィオにそのいかめしきくはだてあかし、己が分派わかれのために彼より最初の印を受けたり 九一—九三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
でも、あの人達も結婚したらきつと良人をつととしてのいかめしさを求婚者のやさしさと引きかへに取戻したことでせう。そしてあなたもきつとさうだらうと思ひますわ。
私が生れつき不道徳でなかつたと同じに、確かにあなたも生れつきいかめしかつたのではありません。ローウッドの束縛がまだいくらかあなたにまつはつてゐるのです。