嘻々きき)” の例文
もとより雛のお客のもてなしは、かしずく女たちがすべてするのであったが、秀吉は彼女たちが嘻々ききとして離れないほどよろこんで見せた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兵士が笑って、銃剣じゅうけんさきで蛇をつっかけて、堤外ていがいほうり出した。無事にこの関所せきしょも越して、彼は母と姉と嘻々ききとして堤を歩んだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
レオンハルトは今や嘻々ききとして、自分の聖なる棲木とまりぎの上から見おろした世界の美と調和とを述べたてていた。
嘻々ききとして紙のかぶりものを頭にめて見交し合う姿が、暴動のようにたちまち周囲を浸した。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
風の暴頻あれしき響動どよみに紛れて、寝耳にこれを聞着ききつくる者も無かりければ、誰一人いでさわがざる間に、火は烈々めらめら下屋げやきて、くりやの燃立つ底より一声叫喚きようかんせるはたれ、狂女は嘻々ききとして高く笑ひぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そして皆で嘻々ききと笑いながら往ってしまった。
西湖主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
智恵子はただ嘻々ききとしてとびはね
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
生徒たちはまた、それをよいことにして、西洋の楽器をろうしたり、雑談したり、嘻々ききと騒ぎ合っていたところだったにちがいない——と。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
管弦楽団の席に開いてる小さなとびらから、マンハイムの嘻々ききとした引きゆがめられた顔が現われて、ひそかに合図をしてるのを見て、クリストフは多少びっくりした。
「ホホホ……」と笑いくずれ、さらに、嘻々ききとしていちだんたかく笑った十三、四歳かと見えるひとりの姫が、几帳の横から
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は例のうるさい調子で、コーンの両手を取り、嘻々ききとして尋ねた。
半右衛門は黙然とそこを退さがって彼方かなたの子ども部屋の方へ足を運んで行った。近づくとそこではつづみの音だの嘻々ききとして騒ぐ少年の声が賑やかにしていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
シュルツは息を切らし嘻々ききとして、叫んでいた。
何も知らぬ松寿丸は、小坊主の幸徳や大勢の少年たちと、つづみを打ったり舞ったり、嘻々ききとして遊びくるっていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旅芸人の一群が、ひなびた曲楽にあわせ、刀玉取かたなたまとりという曲芸を演じている。ここには戦場の陰影も恐怖もなく、無数な顔がただ嘻々ききとしてそれを見ている。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分らの嘻々ききと暮していた家庭がそんなもろいものとは、夢にも思えなかったのである——だから、その間の記憶はみな後日になって独り思い当ってきたり
少年のひとみには、ゆくてを楽しむ心しかない。実に嘻々ききたるものである。わらじを穿く、刀を帯びる、笠を持つ。そうした旅装も少年の夢を凜々りりしく駆りたてる。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嘻々ききとして、彼の手をつかんで振ったり、その肩へ、ぶら下がったりして、戯れながら行くのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かごから放たれた小鳥のように、この女性たちは、他愛なく、嘻々ききとしていた。清水きよみずへも行った、祇園ぎおんへももうでた。——そして今、黒谷くろだにのほうへ降りてきたのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
振向くと村童が二、三人、納屋の横で水牛と寝ころんで嘻々ききと戯れている。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)