かす)” の例文
戎橋河畔の新京阪電車の広告塔のヘッド・ライトが、東道頓堀の雑鬧ざっとうが奏でる都会のかすれ声に交錯して花合戦の幕が切っておとされた。
大阪万華鏡 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
と云うのは、村次郎が云った逢痴の台詞のことですが、そう云えばなんとなく、かすれたような声を、聴いたような気もするのです。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
とたんにかすれた女の声が、二人の身近から聞こえて来た。「畜生道! 畜生道!」それはこういう声であった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自動車が三筋町の電停を一二町も過ぎ尚も疾走を続けようとした折に、夫迄それまで石の様に黙り続けて居た男が、運ちゃん、ストップ、と陰気なかすれ声を発しました。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
義経の声も、おののいて、情のたかぶりのみが、ことばの上にかすれていたし、頼朝の耳も、いたずらに熱していた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『えらう遲い御參詣ごさんけいだすな。さアお上りやす。』と、すみの方の暗いところから、五十恰好かつかうふとつた女將おかみらしい女が、ヨチ/\しながら出て來て、かすれた聲で言つた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
細君は余程悪くなって、声もかすれていたし、咳も出るし、午後の熱にも苦んでいる様子に見えた。
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
それから半時間ばかりつと、始業の鐘がかすれたやうなを立てて一しきり騒がしく鳴り響いた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
(二人の呼び声が響き合い、かすれ疲れ、細り行く間に、舞台、徐々に暗くなり、ついに暗転。)
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
わたしつとめて平気へいきらしく、「ウムた。あんなことがあつたのか。」とこゑかすれて、ふるへてゐた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
かすれた声で、「急用を忘れて居りました、甚だ失礼ながら、今日は是にて」
おもかげ抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
落着いて言いかえしたつもりだったが、動悸がして語尾がかすれた。
虹の橋 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ロシア少女の甘い、かすれた声が、夢の中で彼を招くのだ。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
総毛そうけ立ったかすれ声。沈黙。間。
そして、ふたたびダンス場の桃色の迷宮のなかで僕は、かすれ声のジャズ・シンガーの唱う恋歌に聞きれていた。
しかし、練達な彼がぐっとつかえ、語尾が消えるようにかすれてしまったのだ。拳銃が……無意味な銃口をむけている。やがて、あごでぐいぐい引かれて森をでると、したは、広漠こうばくたる盆地になっている。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
校長もかすれた声を出して呼んだ。『少し早く歩いて下さい。』
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
笛みたいにかすれた返辞が露八ののどの奥でした。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
芳衛さんが、かすれたような声で、いった。