はず)” の例文
馬は、重荷のために後退あとすざりするのを防ごうとして、ひづめにこめた満身の力でふるえながら、脚をひろげ、鼻息をふうふうはずませている。
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
窓の外で聞いている私でさえも真偽の程を疑わずにはいられない事実……眼をみはり、息をはずませずにはいられない恐ろしい大変事を
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「いや騒ぐな、なんでもない」息をはずませながら、「——なんでもないんだ、騒ぐことは少しもないんだ、いいからさがっておれ」
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ガア/\息をはずませながら、第二番目に續いた學生は、其の勢にギヤフンとなツて、眼をきよろつかせ、石段に片足を掛けたまゝ立往生たちわうじやうとなる。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
と息をはずませて、右源太が、人に聞いていた。そして、群衆の中を、走って行った。新らしい橋へ来た時、もう、大作の姿も、役人の姿も無かった。
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
三千代の顔はこの前逢った時よりはむし蒼白あおしろかった。代助に眼とあごで招かれて書斎の入口へ近寄った時、代助は三千代の息をはずましていることに気が付いた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
半狂乱のうちでも、お鉄はさすがに半七の声を聞き分けたらしく、身をもがきながら息をはずませた。
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ああよかった、貴女は無事にお帰宅になっていましたね」坂口は呼吸いきはずませながらいった。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
彼等は心の動揺を外に現わすまいと一生懸命になっているけれど、顔は青ざめ、唇は血の気が失せてカラカラにかわき、呼吸ははずみ、グラスにそそがれた目だけが変に輝いている。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼女はしっかりと兄の手を握って息をはずませた。
青草 (新字新仮名) / 十一谷義三郎(著)
「もうちょっと」と彼は息をはずませながら云った、「そのままもうちょっと、——ああ、まるでなにかの花のようだね」
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と叫ぶと眼がくらみそうになった私は、思わず大卓子テーブルの上に両手を支えた。新しく湧き出す熱い涙で何もかも見えなくなったまま、呼吸いきはずませた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼は呼吸いきはずませていた。暗くてくは判らぬが、おそらく顔の色も蒼くなっているだろうと思われた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と、いったまま、拳を顫わせて、眼を、ヒステリカルに光らせて、呼吸をはずませてしまった。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
どうも遅くなってすみません、と息をはずませて言訳を云っている。御作さんは、本当に、御忙がしいところを御気の毒さまでしたねえと、長い煙管きせるを出して髪結に煙草たばこました。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だん/\暗くなるに連れて、わたくしは自然に息がはずんで、なんだか顔がほてって来ました。照之助が来る——それが無暗に嬉しいのですが、なぜ嬉しいのか判りませんでした。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
みんな呼吸いきはずませてゐる様に見える。三四郎は是等の学生の態度と自分の態度とをくらべて見て、其相違に驚ろいた。どうして、あゝ無分別にける気になれたものだらうと思つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
呼吸をはずませながら重い板戸をゴトリゴトリと開けた。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と、いう呼吸が、はずんでいた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
何故なぜだ。」と、重太郎は息をはずませて詰寄つめよった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と与一は呼吸をはずませた。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)