可憐いと)” の例文
我を可憐いとしと思へる人の何故なにゆゑにさはざるにやあらん。かくまでに情篤なさけあつからぬ恋の世に在るべきか。疑ふべし、疑ふべし、と貫一の胸は又乱れぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
気丈きじょうなので人に涙を見せないのであろうと、尼はなおさら可憐いとしがったが、政子は自分をいつわってはいないのである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と同時に、僕は三十年前の相好と少しも変らないで、大雪渓の下に彫像のように眠っているであろう所の叔父重武が、無限に可憐いとしく、いじらしくなって来た!
彼奴等あいつら可憐いとしいヂュリエットの白玉はくぎょくつかむことも出來でくる、またひめくちびるから……その上下うへしたくちびるが、きよ温淑しとやか處女氣をぼこぎで、たがひに密接ひたふのをさへわるいことゝおもうてか
その丸い猫背の小さな後姿を私は可憐いとしいものに思いながらも、後から、腹の減ったのも我慢したバカでかい声で、「箱根の山は天下の険」と喚きながら、わざと胸を張って歩いて行った。
箱根の山 (新字新仮名) / 田中英光(著)
習ひもおさぬ徒歩かちの旅に、知らぬ山川をる/″\彷徨さまよひ給ふさへあるに、玉のふすま、錦のとこひまもる風も厭はれし昔にひき換へて、露にも堪へぬかゝる破屋あばらやに一夜の宿を願ひ給ふ御可憐いとしさよ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
困ったようにお浦はいって、また可憐いとしそうに上様を見やった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
バルタ 其通そのとほりにござります。あそこに主人しゅじんられまする、御坊ごばう可憐いとしうおもはせらるゝ。
常々も、忘れてはいない可憐いとしい妹! 可愛い弟! それを、今は、なんという魔がさしたのか、弦之丞の姿を見た刹那せつなにフイと忘れて、あそこへ置き去りにしてきてしまった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すぐ発見して、なにか可憐いとしく思ったのです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
あのやうな可憐いとしらしい人間にんげん肉體にくたいにすら夜叉やしゃたましひ宿やどらせたなら