古雅こが)” の例文
それは、色褪いろあせた古金襴こきんらんの袋に入っている。糸はつづれ、ひも千断ちぎれているが、古雅こがなにおいと共に、中の笛までが、ゆかしくしのばれる。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
飛付とびつくように此方こっちからドアを開けると、先の日と同じく古雅こがな青磁色の洋装で、幽里子はニッコリ立っているではありませんか。
余はこんな山里へ来て、こんな婆さんから、こんな古雅こがな言葉で、こんな古雅な話をきこうとは思いがけなかった。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
哥沢節うたざはぶし」は時代のちがつた花柳界くわりうかいの弱いかこちを伝へたに過ぎず、「謡曲えうきよく」は仏教的の悲哀を含むだけ古雅こがであるだけ二十世紀の汽船とは到底相容あひいれざる処がある。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そりをひくにはかならずうたうたふ、是を輴哥そりうたとてすなはち樵哥せうかなり。唱哥しやうがふし古雅こがなるものなり。
平福百穂ひらふくひやくすゐさんの予譲よじやうの画からぬけ出したやうな、古雅こがな服装をした婆さんである。巡査はいろいろ説諭をしてゐるが、婆さんの耳には少しもそれがはいらないらしい。
饒舌 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
服装と云い、踊りと云い、普通とは変って頗る古雅こがなものであった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
古雅こがは好ましいものだ、だが、私は、決してその幅の廣いどつしりした寢臺ベッドの一つに、夜の休息を望む氣にはなれなかつた——ある部屋は樫の扉に閉めこまれて居り、またある部屋は、異樣な花や
ここではとこの花をであい、高麗茶碗こうらいぢゃわん古雅こがを語り、露地の風趣や、冬日のあたたかさなど——話題はまったく日頃の戦陣や人間の葛藤かっとうを離れて
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そりをひくにはかならずうたうたふ、是を輴哥そりうたとてすなはち樵哥せうかなり。唱哥しやうがふし古雅こがなるものなり。
またあるものは自家の紋章をきざみ込んでその中に古雅こがな文字をとどめ、あるいはたての形をえがいてその内部に読み難き句を残している。書体のことなるように言語もまた決して一様でない。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三峰神社の神楽殿かぐらでんでは、今、湯立ゆだての舞の鈴と笛が太鼓につれて古雅こがな調べを合せておりましたが、三人はそれを杉木立の横にながめて、社家の玄関へ、頼む——と静かにおとずれます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)