古物ふるもの)” の例文
「もし、気に入らぬ、断るといわれたら、この小次郎は、もう古物ふるものになるではないか。小次郎はまだ、自分を商品のように売り歩くほど落ちぶれてはおり申さん」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その頃どこかの気紛きまぐれの外国人がジオラマの古物ふるものを横浜に持って来たのを椿岳は早速買込んで、唯我教信と相談して伝法院の庭続きの茶畑をひらき、西洋型の船になぞらえた大きな小屋こやを建て
豆腐屋が売れ残りの豆腐を焼いたと見えてやっぱり虫が交っている。オヤ蒲鉾かまぼこって来た。蒲鉾というと魚の身で拵えたようだがこの蒲鉾は魚三いも七分、これも去年到来の古物ふるものだね。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ふと木之助は「鉄道省払下はらいさげ品、電車中遺留品、古物ふるもの」と書かれた白い看板に眼をとめた。それは街角まちかどの、そとから様々な古物の帽子や煙草たばこ入れなどが見えている小さい店の前に立っていた。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
それが幾許いくばくもなくして運命逆転——相手の宿将の城を焼き、一族を亡ぼすときになってみると、秀吉としては、勝家の首を挙げるよりも、三度の古物ふるものではありながら、生きたお市の方の肉体が欲しい。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かへなさいましとふ、おびまきつけてかぜところへゆけば、つま野代のしろぜんのはげかゝりてあしはよろめく古物ふるものに、おまへきな冷奴ひやゝつこにしましたとて小丼こどんぶり豆腐とうふかせて青紫蘇あをぢそたかく持出もちだせば
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
気長きなが金子かねにして、やがて船一そう古物ふるものを買い込んで、海から薪炭まきすみの荷を廻し、追々おいおい材木へ手を出しかけ、船の数も七艘までに仕上げた時、すっぱりと売物に出して、さて、地面を買う、店を拡げる
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)