双児ふたご)” の例文
旧字:雙兒
そうだとすると、深山木氏が殺される前に旅行した先というのは、この双児ふたごのとじこめられている土蔵のある地方だったに相違ない。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
志乃しのの方と申しましてな。そこで紀州のお館様やかたさま、ご寵愛なされたのでございますよ。そうしてお子様をもうけましたので。それも双児ふたごのお姫様をね。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ええと、——年児としご双児ふたごを生んだものですから、四人の子もちになっているのですよ。おまけにまた夫はいつのまにか大酒飲みになっているのですよ。
或恋愛小説 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ポール・ヴァレリイは同韻の二つの言葉を双児ふたごの交わす微笑にたとえている。偶然の戯れが産んだ三つ児を二組紹介しても別に誰もとがめる者はないだろう。
偶然の産んだ駄洒落 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
男と女の双児ふたごでございますので、いよ/\其の身の因果と諦め、浮世のことはプッヽリ思い切って仕舞いました。
しかし、そういう点、またそのほかの点からいって、これはウォールデンと双児ふたごで、一層小さな方である。
癖までが全く同じようで、松が時々差挟さしはさむ「阿父さん」という声に気づかなければ、双児ふたごのようだった。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
どうも双児ふたごの結晶らしいと思われるものは、両方から引っ張るとちゃんと二つに分れるようになった。
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
此前の双児ふたごの時とは姙娠して三月目から大分に苦しさが違ふ。上の方になつて居る児は位置が悪いと森棟医学士が言はれる。其児がわたしには飛行機の様な形に感ぜられるのである。
産褥の記 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
お島とついの着物をお花にこしらえるために、そこへ反物屋を呼んで、がら品評しなさだめをしたりしたが、仕立あがった着物を着せられた二人の娘は、近所の人の目には、双児ふたごとしかみえなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
人馬宮サギッタリウスの弓にはシン天蝎宮スコルピウスにはラメド処女宮ヴィルゴのY字形にはアイン獅子宮レオの大鎌形にはヨッド双子宮ゲミニ双児ふたごの肩組みには、勿論金牛宮タウルスは、主星アルデバランの希伯来ヘブライ称「神の眼アレフ」どおりに
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そのうち四回は双児ふたごを産み、一回は三を生んだといふ事だ。
……それにしても、不思議なのは、御主人と人見さんと、まるで双児ふたごの様によく似ていることです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さて職人体の好男子いゝおとこでございますが、あれは例のお若さんが根岸の寮で生みました双児ふたご、仕事師の勝五郎が世話で深川の大工の棟梁へ貰われてまいった伊之吉でございます。
産婆は象牙ぞうげあかあぶらの染み込んだ聴診器を鞄にしまい込むと、いろいろのお産の場合などを話して聴かせた。畸形かたわ双児ふたごを無事に産ませた話や、自分で子宮出血を止めたという手柄話などが出た。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
伊之吉といえば勝五郎の世話で深川の大芳棟梁のとこへ養子にやったお若の双児ふたごであるなと思召しますから、いよ/\恟りなされて左の眼のふちの黒痣ほくろにお眼をおけあそばしますと
ところが、何と途方もないことには、その怪賊退治の責任者、当の警視庁の最高指揮者は、いつの間にか真赤な偽物に、しかも誰にも見分けることの出来ない、双児ふたごの様な怪賊の一員と変っていた。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)