厚衾あつぶすま)” の例文
上からおさえ押えんとする雲の厚衾あつぶすまと爭つて、はね除け突き破り、再び自在な自己の天地を見出さんとするやうに、風は次第に吹きつのつて來る。
山岳美観:02 山岳美観 (旧字旧仮名) / 吉江喬松(著)
寝る時には、厚衾あつぶすまに、このくまの皮が上へかぶさって、そでを包み、おおい、すそを包んだのも面白い。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
火元の笹家が燃え尽くして、この時横倒しに倒れたのでもあろうか、ゴーッというすさまじい物音がしたが、見る見る瞬間に露路の上から煙りと火の粉との厚衾あつぶすまが、紋也とお粂とを圧して来た。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
二枚がさねの友禅縮緬ちりめん座蒲団ざぶとんに坐っているお神の前で、土地の風習や披露目の手順など聞かされたものだが、夜になると、お神は六畳の奥の簿記台をまくらに、錦紗きんしゃずくめの厚衾あつぶすまに深々とせた体を沈め
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と、まだ寝ないで、そこに、羽二重の厚衾あつぶすま、枕を四つ、頭あわせに、身のうき事を問い、とわれ、睦言むつごとのように語り合う、小春と、雛妓おしゃく、爺さん、小児こどもたちに見せびらかした。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふすま左右に開きたれば、厚衾あつぶすま重ねたる見ゆ。東に向けて臥床ふしど設けし、枕頭まくらもとなる皿のなかに、蜜柑みかんと熟したる葡萄ぶどうりたり。枕をば高くしつ。病める人はかしらうずめて、ちいさやかにぞ臥したりける。
誓之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
厚衾あつぶすま二組に、座敷の大抵狭められて、廊下の障子におしつけた、一閑張いっかんばりの机の上、抜いた指環ゆびわ黄金きん時計、懐中ものの袱紗ふくさも見え、体温器、洋杯コップの類、メエトルグラス、グラムを刻んだはかりなど
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)