加茂川かもがわ)” の例文
私はそのあたりから頼信紙をとり出して、十一時までには必ず加茂川かもがわべりのある家に行き着いているからという電報を打っておいた。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「なる程、備前岡山は中国での京の都。名もそのままの東山ひがしやまあり。この朝日川あさひがわ恰度ちょうど加茂川かもがわ京橋きょうばし四条しじょう大橋おおはしという見立じゃな」
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
一度なぞはおれと一しょに、磯山いそやま槖吾つわみに行ったら、ああ、わたしはどうすればいのか、ここには加茂川かもがわの流れもないと云うた。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
伊勢はいくさといううわさだが、京都の空はのどかなものだ。公卿くげ屋敷の築地ついじには、白梅しらうめがたかく、加茂川かもがわつつみには、若草がもえている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
珠運しゅうんもとよりまずしきにはれても、加茂川かもがわの水柔らかなる所に生長おいたちはじめて野越え山越えのつらきを覚えし草枕くさまくら
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そういう罪人を載せて、入相いりあいの鐘の鳴るころにこぎ出された高瀬舟は、黒ずんだ京都の町の家々を両岸に見つつ、東へ走って、加茂川かもがわを横ぎって下るのであった。
高瀬舟 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
春寒はるさむを深み、加茂川かもがわの水さえ死ぬ頃を見計らって桓武天皇かんむてんのうの亡魂でも食いに来る気かも知れぬ。
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこには今、徳川慶喜征討令を掲げた高札がいかめしく建てられてあるのを見る。川上の橋の方からはしり流れて来る加茂川かもがわの水に変わりはないまでも、京都はもはや昨日の京都ではない。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
加茂川かもがわの水が一段とまばゆく日の光を照り返して、炎天の川筋には引き舟の往来ゆききさえとぎれる頃でございます。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
桂川かつらがわ加茂川かもがわ、二水の景を一ていにとり入れて、鳥の音もかすかに、千種ちぐさの姿もつつましく、あるがままな自然を楽しむのみならば、四季、いつということもない。
加茂川かもがわの細い流れに臨んでいる、こもだれの小屋の一つを指さしますと、河原蓬の中に立ったまま、私の方をふり向きまして、「あれです。」と、一言ひとこと申しました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そのことそのこと——とばかり動揺どよめくのだった。加茂川かもがわに沿って、灯の多い街だった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
じつあ、きょうも、それを探索たんさくするために、蚕婆かいこばばあとふたりで、加茂川かもがわの岸をブラブラ歩いていると、ごしょうちでがしょう、あの鞍馬くらま竹童ちくどうのやつがボンヤリどてに腰かけていたんです。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)