冬牡丹ふゆぼたん)” の例文
退すさって耳をおさえた。わきあけも、襟も、乱るる姿は、電燭でんきの霜に、冬牡丹ふゆぼたんの葉ながらくずるるようであった。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひとり三位ノ局廉子やすこだけは泣きもしない。泣く以上なものをじいんとまゆに耐えている白い顔なのだ。きッと結んだままなくちも風雪に抵抗する冬牡丹ふゆぼたんのつぼみのべにを置いたようである。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
姿見すがたみおもかげ一重ひとへ花瓣はなびら薄紅うすくれなゐに、おさへたるしろくかさなりく、蘭湯らんたうひらきたる冬牡丹ふゆぼたんしべきざめるはぞ。文字もじ金色こんじきかゞやくまゝに、くちかわまたみゝねつす。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この時ちらちらと降りかかり、冬牡丹ふゆぼたん寒菊かんぎく白玉しらたま乙女椿おとめつばき咲満さきみてる上に、白雪しらゆきの橋、奥殿にかかりて玉虹ぎょっこうの如きを、はらはらと渡りづる、気高けだかく、世にも美しき媛神ひめがみの姿見ゆ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)