てん)” の例文
女史は落胆して、この上は郷里の兄上を説き若干じゃっかんを出金せしめんとて、ただ一人帰郷のに就きぬ、旅費は両人の衣類をてんして調ととのえしなりけり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
殺人さつじん散財さんざいは一時の禍にして、士風の維持は万世ばんせいの要なり。これをてんしてかれを買う、その功罪相償あいつぐなうやいなや、容易に断定すべき問題にあらざるなり。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
オオそうだ、その吉日は百日目、今日からかぞえて八十日目の夜をもって、きっと、華燭かしょくてんをあげることにいたそう。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
常庵は儇巧けんかうなる青年であつた。或時塾を出でて還らざること数日であつた。そして其衣箱いさうひらけば、てんし尽して復一物を留めず、伊沢氏の借す所の衾褥も亦無かつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
この少女こそは、前回に御紹介致しました本事件の主人公、呉一郎の花嫁となって、華燭かしょくてんを挙げるばかりに相成っておりましたその少女で、名前をくれモヨ子と申します。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
てん和尚の学語編がくごへんにはさけの字を出されたり、はあさぢとよむ也。もろこし字書じしよにはは大口細鱗さいりんとあれば鮏にるゐせるならん。字彙じゐにはせいせいの本字にて魚臭なまぐさしといふ字也といへり。
寺になければならぬ涅槃像、年に一度涅槃会ねはんえにかけて、世尊入滅の日をしのぶべき涅槃像が質屋の壁にかかっている。在家ざいけの人の持つまじきものだから、寺の住持が金にでも困っててんしたのであろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
かの西洋諸国の人民がいわゆる野蛮国なるものを侵して、次第にその土地を奪い、その財産をぎ、他の安楽をてんして自から奉ずるのとなすが如き、その処置、ごうも盗賊に異ならず。
教育の目的 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
で、もちろんその華燭かしょくてんは、いとも質素に行われた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)