兵部ひょうぶ)” の例文
藤沢は伊達兵部ひょうぶの用人と会ったことがある。新妻隼人にいづまはやとという者で、ひそかに呼びだされて、浅草はたご町の西福寺で会った。
比叡の権僧正ごんのそうじょうである弟を除くと、兄弟親族はほとんどみな兵部ひょうぶ関係の官位についていたが、泰文だけは例外で、若いころから数理にすぐれ、追々
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
兵部ひょうぶは、眸のながれたような眼で、明りにつれて、海月くらげみたいに、ふわふわとうごく、無数の女の顔を、見まわして
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
師走しわすも十日過ぎのこと、浪士らの所持する武器はすべて加州侯へお預けということになった時、副将田丸稲右衛門や参謀山国兵部ひょうぶらは武田耕雲斎をいさ
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これよりさき、保田の町へ入り込んだ田山白雲は岡本兵部ひょうぶの家へおちつき、その夜は兵部の家の一間で、熱心に主人が秘蔵の仇十洲きゅうじっしゅうの回錦図巻を模写しておりました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
左衛門さえもん乳母めのとといって、源氏からは大弐だいにの乳母の次にいたわられていた女の、一人娘は大輔たゆう命婦みょうぶといって御所勤めをしていた。王氏の兵部ひょうぶ大輔である人が父であった。
源氏物語:06 末摘花 (新字新仮名) / 紫式部(著)
一人は踊の中で、君長の視線の的となっていた濃艶な若い大夫の妻であった。一人は松明の明りの下で、兄の訶和郎かわろと並んで立っている兵部ひょうぶの宿禰の娘、香取かとりであった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
天照大神あまてらすおおみかみおん子孫、神武天皇より九十五代のみかど、後醍醐天皇第一の皇子みこ、一ぽん兵部ひょうぶ卿親王護良もりなが、逆臣のため亡ぼされ、怨みを泉下せんかに報ぜんために、只今自害するありさま見置きて
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
比叡の権僧正ごんのそうじょうである弟を除くと、兄弟親族はみなほとんど兵部ひょうぶに関係した職についていたが、泰文だけは異例で、若いころから数理にすぐれて、追々おいおい
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
伊達兵部ひょうぶへいって、只野内膳か、うまくいったら新妻隼人をつかまえ、少なくとも百金はめしあげてやろう。これが最後だ、と六郎兵衛は自分に云った。
それを、兵部ひょうぶひとごとのように、外の男は、そら耳にうけて、じっと、暗い川波を見つめていたが
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、彼らの一人として、娘をおも兵部ひょうぶ宿禰すくねの計画を洞察し得た者は、誰もなかった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
妹たちも馴染なじんだ良人おっとを捨てて姫君について行くことになった。あてきと言って、夕顔夫人の使っていた童女は兵部ひょうぶの君という女房になっていて、この女たちが付き添って、夜に家を出て船に乗った。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そうして、彼の唇からは、微笑と言葉が流れた星のように消えて行った。彼のこの憂鬱に最も愁傷した者は、彼を愛する叔父おじの祭司の宿禰すくねと、香取を愛する兵部ひょうぶの宿禰の二人であった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
安芸と周防は外部から、甲斐は兵部ひょうぶ宗勝のふところへはいって、相互に連絡を保ちながら、酒井老中と兵部による陰謀の触手を断ち、伊達宗家の安泰を護る、という手筈であったことを述べた。
(しまッた。なぜ俺は、兵部ひょうぶの手に——)
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「三日まえに兵部ひょうぶさまがみえたんです」