僥倖しあわせ)” の例文
だ伊之や/\とから気狂きちがいのようで、実の親でもなか/\斯うは参らぬもので、伊之吉はまことに僥倖しあわせものでげす。
それがなかったのは彼のために僥倖しあわせでした。平常は沈着といわれる者にでも、咄嗟とっさという秒間には、ずいぶん理智をはずした行動のあるものです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼にとって何という僥倖しあわせであったか、迂闊千万にもそこのテーブルの上に、一挺のピストルが置いてあるではないか。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
座敷々々のお客人も一時いっとききましてな、一人としてじっとなすっていらっしゃったお方はないので、手前どもにゃ僥倖しあわせと、怪我をなすった方もござりませんが。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
んなつたなはなし幾分いくぶんたりともあなたがた御参考ごさんこうになればこのうえもなき僥倖しあわせでございます。
それでは東北に大海嘯おおつなみがあったため三万の人が亡くなったというのだね、まあまあ近辺でなくて僥倖しあわせだった、何百里とあるのだから、とんとさしさわりがなくて安心というものだ。
厄払い (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
宗近先生に口止めを頼みましたが僥倖しあわせと大騒動にまぎれて、誰が宗近先生をびに行ったやら、わからずにおりましたところへ、思いがけない先生のお尋ねでもうもう恐れ入りました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「実に僥倖しあわせだな」と、一人の客が言った。
ただ、僥倖しあわせというべきことは、深更しんこうに十手の襲うところとなったため、勢い、あのまま暁へかけて、道を急ぎにかかったであろうと察しられる一点。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……聞いたばかり、聞いたばかりで腰も抜かさないのは、まだしもの僥倖しあわせで飛出したんです。今しがた、あなたが、大方、この長屋の総木戸をお入んなすった時でしょう。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昨日さくじつ火事見舞ながら講釈師の放牛舎桃林ほうぎゅうしゃとうりんの宅へ参りました処同子どうしの宅は焼残やけのこりまして誠に僥倖しあわせだと云って悦んで居りましたが、桃林のうちに町奉行の調べの本が有りまして
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「それから見れば、お増さんなぞは僥倖しあわせだよ。せいぜい辛抱おしなさいよ。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この駕を引っかえしてともはやるのであったが、知らずに別れたのはむしろ僥倖しあわせであったことにすぐ気がつく。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
米もそんなとこへ貰われて行けば僥倖しあわせというもんだろうと思われるし、世話するものがお前もよく知っているあの鳶頭かしらだからの、周旋口なこうどぐちをきいてお弁茶羅べんちゃらごまかす男でもないよ
見えぬで僥倖しあわせいの、……一目見たら、やあ、殿、殿たちどうなろうと思わさる。やあ
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「元よりです。けれど幸い、山木家の郎党にも、兼隆の一族にも、てまえは少しも顔を知られておりません。他国者よそもので、身分のないのが僥倖しあわせです。さっそく、取りかかりましょう」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
表沙汰にはしてもらいたくないと、約束をしてかかったいのりなんだそうだから僥倖しあわせさ。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
棄ててはおかれませんよ、串戯じょうだんじゃねえ。あの、魔ものめ。ご本尊にあやかって、めらめらと背中に火を背負しょって帰ったのが見えませんかい。以来、下町は火事だ。僥倖しあわせと、山の手は静かだっけ。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「しかし、その方が僥倖しあわせだ。……」
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)