やとい)” の例文
勘さんの嗣子あととりの作さんは草鞋ばきで女中を探してあるいて居る。ちとさそうな養蚕かいこやといの女なぞは、去年の内に相談がきまってしまう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
オルクス・クラデル氏は、欧洲大戦終了後、一時長崎の某外科病院(日本人経営)にやとい医員として、来ていたことがある。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
内のねえさんか、あらず、やといの婆さんか、あらず、お茶をいてる抱妓かかえか、あらず、猫か、あらず。あらず。あらず。湯島天神中坂下なかざかしたの松のすしせがれ源ちゃんである。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お浪の家は村で指折ゆびおり財産しんだいよしであるが、不幸ふしあわせ家族ひとが少くって今ではお浪とその母とばかりになっているので、召使めしつかいも居ればやとい男女おとこおんな出入ではいりするから朝夕などはにぎやかであるが
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
土木の小官吏、山林見廻りの役人か、何省おやといの技師という風采ふうさいで、お役人あつかいには苦笑するまでも、技師と間違えられると、先生、陰気にひそひそと嬉しがって、茶代を発奮はずむ。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これから四ツ谷くんだりまで、そりゃ十年おやといつけのようなたしかな若いものを二人でも三人でもおけ申さないでもございませんが、雪や雨の難渋なら、みんなが御迷惑を少しずつ分けて頂いて
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(骨董子、向うから来るのはたしかに婦人だぜ。)と牛骨がいうと、(さん候この雪中を独歩するもの、俳気のある婦人か、さてはこしの国にありちゅう雪女なるべし、)やといお針か、産婆だろう
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このやといにさえ、弦光法師は配慮した。……俥賃には足りなくても、安肉四半斤……二十匁以上、三十匁以内だけの料はある。竹の皮包を土産らしく提げて帰れば、さとから空腹すきばらだ、とは思うまい。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)