はんべ)” の例文
神尾主膳は、同じ家の唐歌からうたという遊女の部屋に納まって、太夫たゆう禿かむろとをはんべらせて、あか羅宇らうの長い煙管きせるで煙草をふかしていると、あわただしく
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
相隨ひし人々の、入道と共に還りし跡には、やかたうちと靜にて、小松殿の側にはんべるものは御子維盛これもり卿と足助二郎重景のみ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
念仏は、まことに浄土に生るゝたねにやはんべるらん。また地獄におつる業にてや侍るらん。総じてもて存知せざるなり。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
村の顔役として村長とホセ警官と小学校長とがこの大先生のお側にはんべってサービス至らざるなく、大先生の鑑定を一刻千秋の思いで待ちびているのであったが
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
子路が他の所ではあくまで人の下風に立つを潔しとしない独立不羈ふきの男であり、一諾千金いちだくせんきんの快男児であるだけに、碌々ろくろくたる凡弟子然ぼんていしぜんとして孔子の前にはんべっている姿は
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
熊本からまた倫敦ロンドンに向った。和尚の云った通り西へ西へとおもむいたのである。余の母は余の十三四の時に死んだ。その時は同じ東京におりながら、つい臨終の席にははんべらなかった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
坊主には候わず、出家にははんべらじ。と、波風のまぎれに声高に申ししが、……船助かりしあとにては、婦人のかおよきにつけ、あだ心ありて言いけむように、色めかしくも聞えてあたりはずかし。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幼少よりお側にはんべり、とにもかくにも、到らぬながら一の御門下、——御師範代をも仰せつかっております以上、万一、御秘義、御授与の儀がありとせば、先ず以て、拙者に賜わるが順当
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
遠ざけにしや、そばにはんべる女もあらず。赤黒子の前には小形の手帳を広げたり、鉛筆を添えて。番地官名など細かに肩書きして姓名数多あまたしるせる上に、鉛筆にてさまざまの符号しるしつけたり。丸。四角。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
一種威厳ある将軍の床にはんべっている様な気がした。
戦話 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
こんな小法師がはんべっていたのかということに気がつき、改めて見直すと、今までの二人の会話を、最も熱心忠実に傾聴していたことを思わせる存在ぶりでありましたから、二たび、三たび
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)