仮普請かりぶしん)” の例文
旧字:假普請
所謂いわゆるバラック建ての仮普請かりぶしんが、如何いかに火の廻りが早いものか、一寸ちょっと想像がつかぬ。統計によると、一戸平均一分間位だ相な。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
沈黙がつづくと、ふたりのあいだには、粗雑な陣中の仮普請かりぶしんのため、ひさしからあふれ落ちる五月雨の音のみが蕭条しょうじょうと耳につく。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家も建てかえたと見えて、大きな屋敷にやや不似合な、仮普請かりぶしんのような小屋になっている。夫婦養子をしたが夫婦とも出稼ぎに行ってしまった。
酉様とりさまの鳥居と筋向いになって、もとの処に仮普請かりぶしんの堂をとどめているが、しかし周囲の光景があまりに甚しく変ってしまったので、これを尋ねて見ても
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
池の水に差し掛けて洋風に作り上げた仮普請かりぶしんの入口をまたぐと、ちいさい卓に椅子いすを添えてここ、かしこにならべた大広間に、三人四人ずつのむれがおのおの口の用を弁じている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もとより芝居小屋の建物はにわか作りの仮普請かりぶしんで、その騒動を持ち堪え切れる筈はなく、二階から先にずり落ちた。佐兵衛の娘は、丁度慧鶴の側へ、二階と一緒に落ちて来て、気を失った。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
本丸とはいえ仮普請かりぶしんなので、居室はほとんど板囲いに過ぎない。程なく、隼人佑はそれへ来て、静かに座をしめ、さて
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
或日あるひあたりのくらくなるのをち、映画見物えいぐわけんぶつかへりのやうなふうをして、それらしくおもはれるところをあちこちとあるまはつてゐるうち、いつか仮普請かりぶしん観音堂くわんおんだうまへかゝつたのにこゝろづき
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
「これはまだ仮普請かりぶしんで、いま裏の方に、伏見にも京にもないような本普請にかかっているのでございますよ」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
護は、館を焼かれるし、息子たち三人は、一時に、戦没してしまったし、それに老齢なので、焼け出されの仮普請かりぶしんの中で、このところ、ぼうと、虚脱していた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
洛陽の朝臣は、根をふるわれた落葉のように、仮普請かりぶしんの宮門を出入りして、みな顔色を失っていた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)