二心ふたごころ)” の例文
正体が知れてからも、出遊の地に二心ふたごころを持って、山霊をないがしろにした罪を、慇懃いんぎんにこの神聖なる古戦場にむかって、人知れず慚謝ざんしゃしたのであるる。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「このに、何の二心ふたごころを抱きましょうや。大事な境目の守護を仰せつけられ、死すとも誉れと覚悟してあるのみにござります」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愛せらるべき、わが資格に、帰依きえこうべを下げながら、二心ふたごころの背を軽薄のちまたに向けて、何のやしろの鈴を鳴らす。牛頭ごず馬骨ばこつ、祭るは人の勝手である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は君唯一人を思ふ、それだのに君はさうではなく同時に二人を思つてゐるやうだ、それは二心ふたごころと云つて賢いのであらう、丁度天に日と月とがあるやうなものだ。
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
しばしば会っているに丙は自分に対し別に悪意をいだかぬようだが、それでかれこれ自分を非難するのは合点がてんがゆかぬと思うと同時に、して見ると丙は余程、二心ふたごころあるもので
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
むかしから芸術の神様はやきもち焼で、二心ふたごころを持つたものは屹度たゝられると言ひ伝へてゐる。だが、世の中には、芸術家をたぶらかさうと、態々わざ/\係蹄わなをこしらへて待つてゐるのも少くない。
カピ妻 とふのも、あの二心ふたごころ下手人げしゅにんめが生存いきながらへてをるからぢゃ。
「もとより二心ふたごころはない。たとえ御追放はうけても、殿の御折檻ごせっかん、この犬千代を真実、人間にして下さろうおぼめしと思えばむしろありがとうて」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夫に二心ふたごころなきを神の道とのおしえは古るし。神の道に従うの心易きも知らずといわじ。心易きを自ら捨てて、捨てたる後の苦しみをうれしと見しも君がためなり。春風しゅんぷうに心なく、花おのずから開く。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
親元に、しかと、本位田家にもらいうけた嫁御、この後どんな事情になろうと、それに、二心ふたごころはあるまいの
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうした母を持ち、母のおしえを護符ごふとする子が、なんで、主君のお不為ふためを陣中で策しましょうや。……たとえ上将に対し、異議論争を云いたてましょうとも、胸に二心ふたごころはありません」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わかったか、それがしに二心ふたごころのないことが」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)