両手もろて)” の例文
旧字:兩手
両手もろての冴えを磨いていたが、昨夜も大雪を物ともせず、魔境と称して人の嫌う硫黄ヶ滝の森へ来て、木太刀を揮っていたのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
平次も、金太も、ガラッ八も、この真っ蒼な顔と、気違い染みた眼と、わななく両手もろての前に、思わず道を開きました。
まなこ閉づれば速く近く、何処いづこなるらんことの音聴こゆ かしら揚ぐれば氷の上に 冷えたるからだ、一ツ坐せり 両手もろてふるつて歌うたへば 山彦こだまの末見ゆ、高きみそら
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
思いのうちに激すればや、じたじたとふるい出すひざかしらをしっかと寄せ合わせて、その上に両手もろて突っ張り、身を固くして十兵衛は、情ない親方様、二人でしょうとは情ない
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そして、とある居酒屋に入つて、麦酒ビールの大杯を三息みいきぐらゐで飲みほした。そして両手もろてで頭をかかへて、どうも長かつたなあ。実にながいなあ。かう独語した。そこで、なほ一杯の麦酒を傾けた。
接吻 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
蚕豆そらまめと麦秋の頃、舟舞台水にうかびて、老柳堀にしだれて、ひりへうと子らぞ吹きける、撥上げてとうとたたきぬ。見えずをば、舟多きから、我が言へば、さらばかくませ、このにと、両手もろてあとにす。
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
飛込んだのは親父の吉五郎、お留と平次の間に割って入ると、両手もろてを後ろに廻して、観念の顔をあげるのです。
篠田は梅子の肩、両手もろてに抱きて「心弱きものと御笑ひ下ださいますな——アヽ今こそ此心晴れ渡りて、一点憂愁いうしう浮雲ふうんをも認めませぬ、——然らば梅子さん、是れでお訣別わかれ致します」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
じた/\とふるひ出す膝の頭を緊乎しつかと寄せ合せて、其上に両手もろて突張り、身を固くして十兵衞は、情無い親方様、二人で為うとは情無い、十兵衞に半分仕事を譲つて下されうとは御慈悲のやうで情無い
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
寂しければ両手もろて張り切り相模灘を抜手切りゆく飛びゆくばかり
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
菱採りはか揺りかく揺り桶舟に両手もろてきしてその菱堀を
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
陣貝は裃正し高々と両手もろて持ちにぞ吹きあげにけれ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
がもとに両手もろてをあてて眼病の少女はゆめみ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
しよくの上両手もろてを垂れて瞑目めつぶれば闇はにほひぬ。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)