一抱ひとかか)” の例文
朱と金でいろどった一抱ひとかかえほどもある大木魚もくぎょが転がッているかと思うと、支那美人を描いた六角の彩燈が投げ出してある。
そのとき練紅梅ねりこうばいの鉢巻して、大模様の片袖をかいがいしく脱ぎからげたひとりの女性が一抱ひとかかえの矢を運んで来てその一本を彼の手に捧げた。信長は見て
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
されどこはいと小さき者の一つなり、水車場を離れて孫屋まごや立ち、一抱ひとかかえばかりのかし七株八株一列に並びて冬は北の風を防ぎ夏は涼しき陰もてこの屋をおおい
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
熊笹の中をけ下ると、つがもみなどの林に這入はいる。いかにおおきな樹でも一抱ひとかかえぐらいに過ぎないが、幹という幹には苔が蒸して、枝には兎糸としが垂れ下っている。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
彼は腰を折りまげて、卓子テーブルの下をのぞきこむと、のろのろした立居振舞たちいふるまいとはまるでちがった敏捷びんしょうな手つきで、一抱ひとかかえもあろうという大きな硝子壜ガラスびんをとりだして、卓子の上に置いた。
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
或る午後、十吉が書類綴りを一抱ひとかかへ持つて土蔵から戻つてくると、玄関の広間の電話が突然けたたましく鳴り出した。荷物をおろして受話器をとると、交換手が下関から長距離電話だといふ。
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
部屋には小ざっぱりと身じたくをした女中じょちゅうが来て寝床をあげていた。一けん半の大床おおとこに飾られた大花活はないけには、菊の花が一抱ひとかかえ分もいけられていて、空気が動くたびごとに仙人せんにんじみた香を漂わした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
法衣ころもそでをまくりあげた忍剣にんけん一抱ひとかかえもある庭石をさしあげて、ドーンと、井戸底いどそこへほうりこむ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
狼藉ろうぜきにとり散らされた反古ほごを踏みつけて、腕にも、反古の綴物とじものや、手紙や、蘭書らんしょらしい本などを、一抱ひとかかえほどもかかえている眼の鋭い与力風の男と、一人の町人とが、手に蝋燭を持って
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)