一塊いっかい)” の例文
こよい四月十九日から、わずか四十余日の後には、本能寺の猛火の中に、その肉体を一塊いっかいの灰となしていた信長だったのである。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで彼等は同時に箸を著け、同時に一塊いっかいの蛇肉をつまむ。——いやいや。どうも蛇肉ではグロだ。やっぱり鰻という方がいい。
幸福な家庭 (新字新仮名) / 魯迅(著)
しかし目だけは天才らしいひらめきを持っているのですよ。彼の目は一塊いっかい炭火すみびのように不断の熱をはらんでいる。——そう云う目をしているのですよ。
或恋愛小説 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
無駄使いして居りませぬ。いや本当です。只今ペチカには一塊いっかいの石炭も燃えては居りませぬ。嘘だとお思いなら、こちらへ来て御覧下さるように……
なぜなら、どちらもそれを煮る時一塊いっかいの砂糖すら入れられはしないのだから。部落で食べる魚といえば飛び上るほど塩辛いさけ、ただそれだけであった。
大地にほうり出されて、起き上がらぬうちに、狂いに狂った馬は、二三十尺もあろうと思う崖の下へ、一塊いっかいの土のごとく落ちて、水音高く沈んでしまったのです。
祖先伝来一切の生命の蓄積して居る土は、其一塊いっかいも肉の一片一滴いってきである。農から土をうばうは、霊魂から肉体を奪うのである。換言すれば死ねと云うのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
船長はまりの様にすばやく転び上ると何やら激しく叫び立てながら逃れ去つた。逃げしなに彼の投げた手裏剣しゅりけん、青たん一塊いっかいが定の真白い肩先にペッタリとへばり着いた。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
香も無きくせ小癪こしゃくなりきと刀せわしく是も取って払い、可笑おかし珠運しゅうん自らたるわざをおたつあだたる事のように憎み今刻みいだ裸体はだかみも想像の一塊いっかいなるを実在まことの様に思えば
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
海は漫々として広く空は一面に晴れわたりたる処に、海の真中に鯨しおを噴けば、その鯨の真上ばかりに一塊いっかいの雲ある処を描き出だして、それが天然の景と見え可申候や。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ソレ自身がトテモ一キロや二キロの物質の一塊いっかいとは思えないほどの超科学的な怪能力、神秘力、魔力を上下八方に放射して、そうした科学者たちの脳髄ソノモノに対する科学的の推理研究を
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
すべてこれ燄々えんえんたる一塊いっかいの瓦斯に過ぎないという結論になる。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
尊氏は、一塊いっかいの土を、築山のうえにおいた。そして、それを亡き英時の霊とみて拝すように、下へ退がって、ぬかずいた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし人間の身体を九つ位にバラバラに切断せつだんして、この蟒に一塊いっかいずつ喰べさせれば、比較的容易に片づくわけだし、腹も著しくふくらむこともなかろうと考えたので、質問してみようと思ったが
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは、自分が悪へおびき入れた弱気な八郎太の死骸だったが、彼の眼にはもう一塊いっかいの土くれに過ぎない。眼はただ、彼方の小屋——草心尼と覚一のねぐらへ向って燃えていた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえば一塊いっかい煉瓦れんがじゃ。