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ちりみだ
唯其の
時は、
爪一つ
指の
尖も、
人目には
漏れないで、
水底に
眠つたやうに、
面影ばかり
澄切つて
居たのに、——こゝでは、
散乱れた、三ひら、五ひらの
卯の
花が、
凄く
動く
汽車の
底に
二人は
此処でも
後になり先になり、
脚絆の足を入れ違いに、
頭を組んで
白波を
被ぐばかり
浪打際を
歩行いたが、やがてその大きい方は、五、六尺
渚を
放れて、日影の如く
散乱れた、かじめの中へ
女子はあたりを
見廻して
高く
笑ひぬ、
其身の
影を
顧みて
高く
笑ひぬ、
殿、
我良人、
我子、これや
何者とて
高く
笑ひぬ、
目の
前に
散亂れたる
文をあげて、やよ
殿、
今ぞ
別れまゐらするなりとて