-
トップ
>
-
さくらまち
櫻町が
殿の
面影も
今は
飽くまで
胸に
浮べん、
我が
良人が
所爲のをさなきも
強て
隱さじ、
百八煩惱自から
消えばこそ、
殊更に
何かは
消さん、
血も
沸かば
沸け
炎も
燃えばもえよとて
何せよ
彼せよの
言附に
消されて、
思ひこゝに
絶ゆれば
恨をあたりに
寄せもやしたる、
勿躰なき
罪は
我が
心よりなれど
櫻町の
殿といふ
面かげなくば
胸の
鏡に
映るものもあらじ、
罪は
我身か、
殿か
櫻町の
名を
忘れぬ
限り
我れは
二心の
不貞の
女子なり。
桜町の
殿は
最早寝処に
入り給ひし
頃か。さらずは
燈火のもとに書物をや
開き給ふ。
然らずは机の上に紙を
展べて、静かに筆をや動かし給ふ。