遠方えんぽう)” の例文
遠方えんぽうへ、およめにいってしまわれたのよ。」と、おかあさまも、そのむすめさんのことをおもされたように、ほそくしていわれました。
青い花の香り (新字新仮名) / 小川未明(著)
だから儂は、すくなくとも毎週一度は、宮川氏の様子を遠方えんぽうから、それとなく観察するつもりだ。それが儂のいまいった診察なんだ。
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「あ、さようでございましたか。それはそれは遠方えんぽうのところをご苦労くろうさまで……それはあのなくなったは気違きちがいのことでしょうな」
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ついでにこのいえもおまえさんにあずけるから、遠慮えんりょなくまってください。わたしたちは当分とうぶん遠方えんぽうへ行ってらさなければなりません。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
かの女はそういうものがまれにはかの女の遠方えんぽうるのを感じる。しかし遠いものは遠いものとしてはるかに尊敬の念を送って居たい。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あれは本当ほんとうといえば本当ほんとう、ゴマカシといえばゴマカシでござる。われわれは肉体にくたいぐるみ人間にんげん遠方えんぽうれてくことはめったにござらぬ。
それには遠方えんぽうよりつち次第しだいにつんで傾斜けいしやした坂道さかみちきづげ、それへいしげてこれをたておとて、それからそのうへ横石よこいしせたもので
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
たとへば鐵砲てつぽう彈丸たま遠方えんぽうばす原因げんいん火藥かやく爆發力ばくはつりよくであるが、これを實現じつげんせしめる副原因ふくげんいん引金ひきがねはづ作用さようである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
私は遠方えんぽうからまいった油商人でございますが、今晩だけ、とめていただけませんでしょうか。そして、この油がめを
「先生、あの、このお方が、先生にお目にかかりたいといって、わざわざ遠方えんぽうからおいでなさいましたのですが。」
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しろ」が居た頃、此犬はつねに善良な「白」をいじめ、「白」を誘惑して共に隣家となりの猫をみ殺し、到頭とうとう「白」を遠方えんぽうにやるべく余儀なくした、云わば白のかたきである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そらつてゐるあきつき。その月光つきかげのさしてゐるそら遠方えんぽうからやつてかりが、れつをなしてきとほつてく。こんなばんには、いつしょにしたしむともだちの訪問ほうもんたれる。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
此樣こんことふとめうだが、ひと一種いつしゆ感應かんおうがあつて、わたくしごときはむかしからどんな遠方えんぽうはなれてひとでも、『あのひと無事ぶじだな』とおもつてひとに、しんためしはないのです。
遠方えんぽうの者だろうというこってす。おれはこの年まで、石巻いしのまきまでもめったに出ねエ者だが、おれの馬鹿なことはよっぽど遠くまで聞こえてるといって、家で笑っていたことでがす。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
うしは、おだやかなおおきなをみはって、遠方えんぽうひかりらされてあつそうな景色けしきていましたが、からすがあたまうえでこういますと
馬を殺したからす (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかるに何百キロ何千キロという遠方えんぽうになると、どんなに電力をしても聴えない。これは可笑おかしいというのでいろいろ調べてみました。
科学が臍を曲げた話 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
「まあ、そんな遠方えんぽうへ行くのでは、さぞおなかがおすきだろう。よしよし、おべんとうをこしらえてげましょう。」
桃太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
私のことを「まあ御気丈おきじょうな、お独り子を修行しゅぎょうためとは言え、よくあんな遠方えんぽうへ置いてらしった。流石さすがにあなた方はお違いですね。判ってらっしゃる」
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
たとひ四邊あたり火災かさいおそれがないようにかんがへられた場合ばあひおいても、遠方えんぽう火元ひもとから延燒えんしようしてることがあるからである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
「一口さしあげないで、どうしてお帰し申すことができましょう。ご遠方えんぽうのお帰りをまことに申しわけが……」
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
肉体にくたい通例つうれい附近ふきん森蔭もりかげ神社やしろ床下ゆかしたなどにかくき、ただいたたましいのみを遠方えんぽうすものでござる。
さていままをしたいろ/\のかたち古墳こふんは、今日こんにちのこつてゐるものには、たいていまつ樹木じゆもくしげつて、遠方えんぽうからながめると、こんもりしたもりのようにえるのですが
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
これは遠方えんぽうつてゐるやなぎの、いかにも春景色はるげしきになつていろあひがそれである。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
それがだめなんですよ。先生は旅行していらっしゃるんです。どっか遠方えんぽうの事件なんですって。でね、小林さんに相談したんですよ。するとね、あの人やっぱり頭がいいや。うまいことを
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この屏風形べうぶがたいわは、遠方えんぽうからると、たゞ一枚いちまい孤立こりつしてるやうだが、いまそのうへのぼつてると、三方さんぽう四方しほうおなかたちいわがいくつもかさなつて、丁度ちやうど羅馬ローマ古代こだい大殿堂テンプル屋根やねのやうなかたちをなし
あかふねがきましたよ。さあ、もうわたしたちは、つときです。どうか、遠方えんぽうにいるおともだちにらせてください。」といいました。
赤い船とつばめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
鐵砲てつぽう彈藥だんやく裝填そうてんしてあれば引金ひきがねはづすことによつて彈丸たま遠方えんぽうぶが、もし彈藥だんやく裝填そうてんしてなくあるひたん彈丸たまだけめて火藥かやくくはへなかつたなら
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
ぼくはトラックにられ、それから貨車の中に揺られ、放送所のある遠方えんぽうの土地まではこばれていった。
もくねじ (新字新仮名) / 海野十三(著)
まえにも申上もうしあげたとおり、わたくし修行場しゅぎょうば所在地しょざいちやま中腹ちゅうふく平坦地たいらちで、がけうえってながめますと、立木たちき隙間すきまからずっと遠方えんぽうはいり、なかなかの絶景ぜっけいでございます。
つなちいさいときははわかれたので、母親ははおやわりにわたしがあの子をそだててやったのです。それがいまはえらいさむらいになったといって、せっかく遠方えんぽうからたずねててもってはくれない。
羅生門 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
は、それがために、かみなりをおそれていました。そして、いま、遠方えんぽうかみなりおとをきくと、ぶるいせずにはいられませんでした。
ぴかぴかする夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
鎔岩ようがん無數むすう泡末ほうまつふくまれたものは輕石かるいしあるひはそれに類似るいじのものとなるのであるが、その小片しようへんはらぴりとづけられ、火山灰かざんばひとも遠方えんぽうにまではこばれる。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
相手国たる独国の海軍根拠地こんきょちウィルヘルムスハーフェンを去ること実に五百六十マイル遠隔えんかくの地にあり、独国軍艦にお目にかかるのには、外野席以上の遠方えんぽうの地点で、これほど縁どおいところはない。
沈没男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
夕立ゆうだちがやってきそうですよ。遠方えんぽうかみなりっています。それは、あなたのみみには、はいりますまい。ずっととおくでありますから。
負傷した線路と月 (新字新仮名) / 小川未明(著)
火口近かこうちかくにゐてこの波動はどう直面ちよくめんしたものは、空氣くうきおほきなつちもつなぐられたことになるので、巨大きよだい樹木じゆもく見事みごとれ、あるひこぎにされて遠方えんぽうはこばれる。勿論もちろん家屋かおくなどは一溜ひとたまりもない。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
春江と電気看板の点滅てんめつを合図に逢瀬おうせを楽しんでいたことが忘れられず、今は鈴江と仲のよくなった今日も、毎晩のように十三丁も遠方えんぽうから、あの桃色のネオン・サインをうっとり見詰みつめていたそうで
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かれは、にぎやかな都会とかいから、こっそりとして、ふねりました。そして、できるだけ遠方えんぽうへゆこうとしました。ふねなか
船でついた町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ちょっと遠方えんぽうなんです」
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こうして、とりにたべられて、そのとりが、遠方えんぽうんでいって、ふんをすると種子たねが、そのなかにはいっていて、すこともあるのです。
赤い実 (新字新仮名) / 小川未明(著)
とうさんは、あおざめた、がたちかそらかぜおとを、まくらにあたまをつけたまま、きながら、こころ遠方えんぽうにはせていられました。
火事 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし、かれひとりとなって、しずかにかんがえたとき、自分じぶんまちからて、遠方えんぽうへいった時分じぶんにも、母親ははおや霊魂たましい無断むだんであったことをおもいました。
牛女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あわれな小僧こぞうや、むすめや、母親ははおやがいるのは、そんなに遠方えんぽうまちではあるまいから、おまえさんはその小僧こぞうむすめ盲目めくら按摩あんまさがしなさるがいい。
塩を載せた船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「すこし、遠方えんぽうだが、これだけのかねでいってくださらんか。まごが、急病きゅうびょうだとらしてきたのだが……。」と、たのみました。
日月ボール (新字新仮名) / 小川未明(著)
「こいつのすんでいるいけは、そうたくさんはありません。これは遠方えんぽうからおくられてきたんですよ。よるになるときます。」
真昼のお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
くろもり姿すがたが、だんだんゆきうえに、たかくのびてきました。なかにはぼうさんが、くろ法衣ほういをきてっているような、一ぽん木立こだちも、遠方えんぽうられました。
大きなかに (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしは、こうくと、きのどくにおもいました。やっと、遠方えんぽうからかえってきて、同情どうじょうするものがなかったら、ちからのおとしようは、どんなかとおもうからでした。
春さきの朝のこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
よく遠方えんぽうのかすんでえないで、じっとそのほうますと、たしかに、ごろからおそれているわしが、自分じぶんがけてんでくることがわかりました。
一本のかきの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あるあさのこと、すこしの油断ゆだんはからって、かれは、一からしました。そして、どこというあてもなく、ただ遠方えんぽうへと、あしまかせてはしったのです。
サーカスの少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
にんまえには、さびれていく田園でんえん景色けしきがしみじみとながめられたのです。年上としうえ子供こどもは、くろひとみをこらして、遠方えんぽうをじっと物思ものおもわしげにつめていました。
石段に鉄管 (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれど、からすは、羽根はねのいったことがみみはいらなかったように遠方えんぽうもりなかんできて、いちばんたかいただきにあった、自分じぶんなかってきました。
東京の羽根 (新字新仮名) / 小川未明(著)