持出もちだ)” の例文
この氷滑こほりすべりがゆきたのしみの一つで、とうさんもぢいやにつくつてもらつた鳶口とびぐち持出もちだしては近所きんじよ子供こどもと一しよゆきなかあそびました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しかし、門外不出もんがいふしゅつ取扱とりあつかいには、十ぶん注意ちゅういしていましてね。わたしにしても、そうみだりに持出もちだすことはできない仕組しくみになつているんですから
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
敵もさる者、島影を小楯にとって、たちまち四五台の機関銃を持出もちだし、豆をるような音を立てながら必死になって応戦し始めた。
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
更に雪明ゆきあかりですかしてると、土間の隅には二三枚の荒莚あらむしろが積み重ねてあったので、お葉はこれ持出もちだしてかまちの上に敷いた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その蟹を中において大いにおどり、それからまたその蟹を持出もちだして海上はるかの沖の、大きな岩の上におくと、かならず雨が降ったといってもいる。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
大層評判がよろしゅうございますから……なんですよ、この頃に絵具えのぐ持出もちだして、草の上で風流の店びらきをしようと思います、大した写生じゃありませんか。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
銀之助の不平は最早もう二月ふたつき前からのことである。そして平時いつこの不平を明白あからさまに口へ出して言ふ時は『下宿屋だつて』を持出もちだす。決して腹の底の或物あるものは出さない。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
それはキリストけう教會けうくわい附屬ふぞく病院びやうゐんなので、そのこといては、大分だいぶ異議いぎ持出もちだしたものもあつたが、この場合ばあひこくも、病人びやうにん見過みすごしてことはできなかつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
丈「此処こゝは滅多に奉公人も来ないから、少しぐらい大きな声を出してもきこえることじゃアねえ、話は種々いろ/\あるが、七年前旅荷にして持出もちだした死骸は何うした」
此他このたに、四十一ねんの十ぐわつ、七八九三ヶにち、お穴樣あなさま探檢たんけん駒岡こまをかにとかよつた、其時そのときに、道路だうろ貝殼かひがらくのをて、何處どこ貝塚かひづかから持出もちだしたのかとうたがつてた。
十人が二十人になり、三十人になり、最後には、飛道具や、さす又や、本職の捕物道具まで持出もちだして、一人の余吾之介を、手負猪ておいじしでも扱うように取詰めたのです。
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
すると一人ひとり思付おもいつきに、この酒をの高い物干ものほしの上で飲みたいと云うに、全会一致で、サア屋根づたいに持出もちだそうとした処が、物干の上に下婢げじょが三、四人涼んで居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
やがてドーブレクは椅子にかけたが、兇悪、冷酷な相貌して口唇くちびるには深刻な皮肉が浮かんで来た。彼は何事か条件を持出もちだしているらしく、卓子を叩き叩き頻りに怒鳴り立っている。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
うめいて、紫色むらさきいろ雑木林ざふきばやしこずゑが、湿味うるみつたあをそらにスク/\けてえ、やなぎがまだあら初東風はつこちなやまされて時分じぶんは、むやみと三きやく持出もちだして、郊外かうぐわい景色けしきあさつてあるくのであるが
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
お房は、チヤブ臺を持出もちだしたり、まめ/\しく立働たちはたらいて、おぜん支度したくをしてゐる。周三は物珍ものめづらしげにれを見たり是れを見たりして、きよろついてゐると、軈てお膳に向ふ段取だんどりとなる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
この時、たれかがこの下人に、さつきもんの下でこの男が考へてゐた、饑死うゑじにをするか盗人になるかと云ふ問題を、改めて持出もちだしたら、恐らく下人は、何の未練みれんもなく、饑死を選んだ事であらう。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いつもごと臺所だいどころからすみ持出もちだして、おまへひなさらないかとけば、いゝえ、とおきやうつむりをふるに、ではればかり御馳走ごちそうさまにならうかな、本當ほんたう自家うち吝嗇奴けちんばうめやかましい小言こごとばかりやがつて
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
下女が三人前の膳を持出もちだし、二人分をやや上座かみくらえ、残りの膳をその男の前へなおした、男も不思議に思い、一人の客に三人前の膳を出すのは如何どういう訳だと聞くと、下女はいぶかしげに三人のお客様ゆえ
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
彼は洋燈らんぷ持出もちだして庭をてらすと、足跡はたしかに残っているが、人の形は見えぬ。なお燈火あかり彼地此地あちこちへ向けているうちに、雪は渦巻いて降込ふりこんで来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すぐに伴藏は羊羹箱の古いのにの像を入れ、畑へ持出もちだ土中どちゅうへ深く埋めて、其の上へ目標めじるしの竹を立置たてお立帰たちかえり、さアこれから百両の金の来るのを待つばかり
そのうち、すきて、縁臺えんだいに、うすべりなどを持出もちだした。なにうあらうとも、今夜こんや戸外おもてにあかす覺悟かくごして、まだにもみづにもありつけないが、ほついきをついたところへ——
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うすうす事情を知っている美奈子夫人がそっと自分の荷物の中に取込んで持出もちだしてしまいました。
かく既發見きはつけん遺物いぶつだけそと持出もちだし、あと明日あすまで封鎖ふうさするがからうと、一けつし、各新聞記者かくしんぶんきしやおよ少數せうすうひと窟内くつないを一けんさしたのち余等よらにんあなからことにした。
次第々々に攘夷論がさかんになって、外交は次第々々に不始末だらけ、今度の使節が露西亜ロシアいった時に此方こっちから樺太カラフト境論さかいろん持出もちだして、その談判の席には私も出て居たので
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかもこれはをんなはうから種々しゆ/″\問題もんだい持出もちだしてるやうだそして多少いくらうるさいといふ氣味きみをとこはそれに説明せつめいあたへてたが隨分ずゐぶん丁寧ていねいものけつして『ハア』『そう』のではない。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ぐわつ初午はつうまには、おうちぢいやがおほきな太鼓たいこ持出もちだして、そのやしろわきさくらえだけますと、そこへ近所きんじよ子供こどもあつまりました。とうさんもその太鼓たいこたゝくのをたのしみにしたものです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
こくりと一つ頷くと、足早に土蔵の中へ入って行ったが、間もなく一挺の猟銃と弾丸筐ケース持出もちだして来た。——その猟銃は父の愛用品で、英吉利イギリスから態々わざわざ取寄せた二聯にれん銃身の精巧な物だった。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かへなさいましとふ、おびまきつけてかぜところへゆけば、つま野代のしろぜんのはげかゝりてあしはよろめく古物ふるものに、おまへきな冷奴ひやゝつこにしましたとて小丼こどんぶり豆腐とうふかせて青紫蘇あをぢそたかく持出もちだせば
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
けれども、窟の底には母に教えられた大切の宝が有る。これ持出もちだしてひとに売れば、自分は大金満家おおがねもちになれるのである。乞食をないでも済むのである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
回目くわいめには矢張やはり其人數そのにんずで、此方こちらシヨブルや、くわつてたが、如何どううまかぬものだから、三回目くわいめには汐干しほひときもちゐた熊手くまで小萬鍬せうまんくわ)が四五ほんつたのを持出もちだしたところ
志津子夫人は展望台の出張りに三脚を持出もちだして、海の絵を描く、その傍で千束守が、海気を肺臓一パイに吸って、南の国の歌を歌う、——それを御主人の喜田川三郎氏が
二間梯子にけんばしご持出もちだし、萩原の裏窓のしたみへ立て懸け、慄える足を踏締ふみしめながらよう/\登り、手を差伸ばし、お札を剥そうとしても慄えるものだから思うように剥れませんから
たゞし人目ひとめがある。大道だいだう持出もちだして、一杯いつぱいでもあるまいから、土間どまはひつて、かまちうづたかくづれつんだ壁土かべつちなかに、あれをよ、きのこえたやうなびんから、逃腰にげごしで、茶碗ちやわんあふつた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私もはなはしって居るので、尋ねて参れば何時いつも学問の話ばかりで、その時に主人は生理書の飜訳最中さいちゅう、その原書を持出もちだして云うには、この文の一節が如何どうしてもわからないと云う。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
わたしたちは、蝙蝠傘かうもりがさを、階段かいだんあづけて、——如何いか梅雨時つゆどぎとはいへ……本來ほんらい小舟こぶねでぬれても、あめのなゝめなるべき土地柄とちがらたいして、かうばんごと、繻子張しゆすばり持出もちだしたのでは
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さて皆様、か様な席上に持出もちだすのは、甚だ無躾で相済みませんが、明日は森川夫人になられる鈴子さんに、国府未亡人の最後の思い出として、金弥老人の吹込み遺した、レコードを
たく酒井伝吉さかゐでんきちといふ車ををとこがある、此男このをとこは力が九人力にんりきある、なぜ九人力にんりきあるかといふと、大根河岸だいこんがし親類しんるゐ三周さんしうへ火事の手伝てつだひにやつたところが、一人でたゝみを一度に九枚持出もちだしたから
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
帷幄ゐあくさんして、蝶貝蒔繪てふがひまきゑ中指なかざし艷々つや/\しい圓髷まるまげをさしせてさゝやいたはかりごとによれば——のほかにほ、さけさかなは、はしのさきで、ちびりと醤油しやうゆ鰹節かつをぶしへてもいゝ、料亭れうてい持出もちだし)
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
お駒は到頭三之丞を説き伏せてしまいました。二人は二羽の蝶のように、父親の寝部屋に忍び込むと、そっと枕元に這い寄って、手筐てばこの中の鍵と、柱に掛けてある手鍵を持出もちだしました。
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
はゝあ、怪談くわいだんりたさに、前刻さつきたぬき持出もちだしたな。——いや、あへうではない。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
出来ない相談を持出もちだして、御老中若年寄始め、御三家諸大名を驚かして居る
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
権現様ごんげんさま戦場お持出もちだしの矢疵やきず弾丸痕たまあとの残つた鎧櫃よろいびつに納めて、やりを立てて使者を送らう。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「りんよ、りんよ、權平ごんぺい權平ごんぺいよ、りんよ、權平ごんぺいかたな寄越よこせ、かたな寄越よこせ、かたなを。」とよびかけたが、權平ごんぺいも、りんも、寂然ひつそりしておとてない。たれあへ此處こゝきれものを持出もちだすものか。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
勿體もつたいないが、ぞく上潮あげしほから引上ひきあげたやうな十錢紙幣じつせんしへい蟇口がまぐち濕々じめ/\して、かね威光ゐくわうより、かびにほひなはつたをりから、當番たうばん幹事かんじけつして剩錢つりせん持出もちださず、會員くわいゐん各自かくじ九九九くうくうくうつぶそろへて
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
小稿せうかう……まだ持出もちだしのかず、かまちをすぐの小間こまで……こゝをさうするとき……
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
箱根土産はこねみやげの、更紗さらさちひさな信玄袋しんげんぶくろ座蒲團ざぶとんそば持出もちだして、トンといて
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もの干棹ほしざをながやつ持出もちだして、掻𢌞かきまはして、引拂ひつぱたかうとおもつても、二本にほんいでもとゞくもんぢやねえぢやあねえか。たかくつてよ。なあばあさん、椋鳥むくどり畜生ちくしやう、ひどいはしやがるぢやあねえか。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その混亂こんらんのあとには、持出もちだした家財かざい金目かなめのものがすくなからず紛失ふんしつした。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)