)” の例文
「もう、半月はんつきもたちゃ、すいかだってめずらしくはない。いまならってもれるだろう。」と、主人しゅじんは、つけくわえていいました。
初夏の不思議 (新字新仮名) / 小川未明(著)
魚眼ぎょがんというりのある眼、りのふかい鼻すじ、まゆの形、いい唇、個々に見れば見るほど、なおどこかで記憶のある女の顔であった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おくさんのこゑにはもうなんとなくりがなかつた。そして、そのままひざに視線しせんおとすと、おもひ出したやうにまたはりうごかしはじめた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
すると良人おっとわたくし意見いけんちがいまして、それはあま面白おもしろくない、是非ぜひ若月わかつき』にせよとって、なんもうしてもれないのです。
いくそうかの船はをいっぱいにって、一方にかたむきながら、ゆうゆうと川を下って行くと、こちらからは反対に上って行った。
「あつしは北の國で、歌舞の菩薩の見世みせを一と廻り拜んで、向柳原へ歸つて寢てしまひましたよ。月待ちと洒落しやれるほどは金がねえ」
自分じぶんみせつて註文ちうもんるほどの資力しりよくはないまでも、同業どうげふもとやとはれて、給金きふきんらうなら、うした力業ちからわざをするにはあたらぬ。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
したには小石こいしが一めん敷詰しきづめてある。天井てんぜうたかさは中央部ちうわうぶは五しやくずんあるが。蒲鉾式かまぼこしきまるつてるので、四すみはそれより自然しぜんひくい。
あみつたたか竹竿たけざをには鳥籠とりかごかゝつてました。そのなかにはをとりつてありまして、小鳥ことりむれそらとほたびこゑびました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
したがつて出來上できあがつたものには、所々ところ/″\のぶく/\が大分だいぶいた。御米およねなさけなささうに、戸袋とぶくろけたての障子しやうじながめた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかしあんまり不思議ふしぎな話なので、主人はそれをどうしても信じることが出来ませんでした。商人はあくまでほんとうだと言いります。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
りとおすかどうかは疑問なのじゃ。そのころには、優秀な生物がどこかの遊星の上に出来て、本格的に地球征服を実行するかも知れない
遊星植民説 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「塾の中だけのむずかしさなら、かえってりあいがあって楽しみですけれど、外からいろいろ干渉かんしょうされたりするのは、いやですわね。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
一度は村の見知みししの若者の横顔を見世みせの前でちらと見た。一度は大高島の渡船とせんの中で村の学務委員といっしょになった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
鉄柵と云うのは、ホンの腰位の高さの煉瓦れんがの柱の間に、やはり同じ位の高さでめぐらしてあるので、飛越えるには大した造作はないのです。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
そして彼等かれらは、その立派りっぱつばさひろげて、このさむくにからもっとあたたかくにへとうみわたってんでときは、みんな不思議ふしぎこえくのでした。
このうえ躊躇ちょうちょしていたら、った煙管きせるで、あたまのひとつもられまじき気配けはいとなっては、藤吉とうきちも、たないわけにはかなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
美しい百合のいきどおりは頂点ちょうてんたっし、灼熱しゃくねつ花弁かべんは雪よりもいかめしく、ガドルフはそのりんる音さえいたと思いました。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
れがよこゝろはこうなれど、おこるまえぞえ見棄みすてまえ、たがひかほあはせたら、言辭ことばけてくだされよう……」巫女くちよせ時々とき/″\調子てうしげていつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
とてもつもらば五尺ごしやく六尺ろくしやく雨戸あまどけられぬほどらして常闇とこやみ長夜ちやうやえんりてたしともつじた譫言たはごとたまふちろ/\にも六花りくくわ眺望ながめべつけれど
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
透明人間とうめいにんげんは、いつもの、いんきくさいをのろったような声とはまるでちがう、わかいりのある声で話しつづけた。
私はその最後の低いり切つた顫音せんおんが消えるまで——ちよつとの間止んでゐた話聲が再び元に歸るまで、待つてゐた。
ったばかりの天井てんじょうにふんの砂子すなごらしたり、馬の眼瞼がんけんをなめただらして盲目もうもくにする厄介やっかいものとも見られていた。
蛆の効用 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
たとへわがふね全檣ぜんしやう蒸滊機關じようききくわん破裂はれつするまで石炭せきたんいてげやうとも如何いかうすること出來できやう。
もうになつたころだ。ふか谷間たにまそこ天幕テントつた回々教フイフイけう旅行者りよかうしやが二三にん篝火かがりびかこんでがやがやはなしてゐた。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
ツつ、ツつも、正義や弱いものを助けるためのはすくなくて、繩張りの勢力爭ひで、弱者がほろびてゆく。
凡愚姐御考 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
いまいままでりつめてゐた一寸ちよつとゆるんで、彼女かのぢよは一安心あんしんのためにがつかりしてしまつたのである。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
といいましたが、にいさんはなんともわないので、おんな横面よこッつらると、あたまがころりとちました。それをると、おんなこわくなって、しました。
されどなおその火を躍り越えて入り来るにより、ついには馬のつなきこれをめぐらせしに、おとしあななどなりとや思いけん、それよりのちは中に飛び入らず。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
こんりも尽き果てた疲れを負って歩く、灰色の路の我が人生の旅の行方を想うと、堪え難く寂しく悲しい。
利根川の鮎 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
なにしろ、湖の上には氷がほとんどいちめんにりつめていて、それがどす黒く、しかも、でこぼこしていて、いたるところにけ目やあながあるのですからね。
すなわち彼等の目的もくてき時機じきに投じて恩威おんいならほどこし、くまでも自国の利益りえきらんとしたるその中には、公使始めこれに附随ふずいする一類いちるいはいにも種々の人物じんぶつありて
今年は今年で、お鳥(女房の名)が指さあ、れもの出来でかして、岩佐様さあ七十日がな通いましただ。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それからくらからうまむねのところやしりほうまはつてかはおびには、杏葉きようようといふかざりがつけてありまして、そのかざりはたいていてつうへきんめっきをしたどうりつけ
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
その色々の声が、大津絵を補綴ほてつして行く工合ぐあひは、丁度ちやうどぜの屏風びやうぶでも見る時と、同じやうな心もちだつた。自分は可笑をかしくなつたから、途中であははと笑ひ出した。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その先生は凧屋たこやに凧をらせて、自分でそれに絵をかいてやるのをたのしみにしている人でした。だから、おやじさんのいうことをすぐに聞いて、自分の弟子でしにしました。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
此辺には滅多に見た事も無い立派な輿だ。白無垢の婦人、白衣の看護婦、黒い洋服の若い医師、急拵きゅうごしらえの紋を透綾すきやの羽織にった親戚の男達、其等が棺の前後に附添うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
こういうふうにいいきかされると、ぐうたらなジャックのこころも、ぴんとってきました。
ジャックと豆の木 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
くら意地いぢつてるな、鑑定めきゝむとこれからお茶を立てるんで御広間おひろまかまかゝつてる、おめえにも二三教へた事もつたが、何時いつむやうにして茶碗ちやわんなぞはわかりません
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
まいつゞきにしたつて封書ふうしよおなことで三せんだ。たまに三まいつゞきにすることもあるが、状袋じやうぶくろれたり、切手きつてつたりする面倒めんだうがないだけでも、一せんりん値打ねうちはあるからな。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
人といふものは二気あれば即ち病む、といふ古い支那のことわざにある通り(中略)宜しくたんさかんにし、飲食を適宜にし、運動を怠らずして、無所むしよ畏心ゐしんに安住すべきである。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
(二〇)かみおこなへばすなは(二一)しんかたし。(二二)らざればくにすなは滅亡めつばう
それでもない鬱積の塊のようなものが心身をち切らしそうに膨脹して来て、愉快とも苦痛とも言えない気持は、とても尋常の談話などしていられる時期ではないように思われた。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
すなはち、そこは灌木帶かんぼくたいといふところで、こと偃松はひまつにつくので、偃松帶はひまつたいともいつてゐます。偃松はひまつ地上ちじよう二三尺にさんじやくのところにうでばし、ひぢつたように、えだ四方しほうにひろげてゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
「なんですよ。そんなの虎みたいに——みっともないじゃアありませんか」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かれ發狂者はつきやうしやらしいところは、始終しゞゆうつた樣子やうすと、へん眼付めつきとをするのほかに、時折ときをりばんになると、てゐる病院服びやうゐんふくまへ神經的しんけいてき掻合かきあはせるとおもふと、はぬまでに全身ぜんしんふるはし
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あなつくるに當つては、或は長さ幾歩いくほはば幾歩とあゆみ試み、或はなわ尋數ひろすうはかりて地上にめぐらし、堀る可き塲所ばしよの大さを定め、とがりたるぼうを以て地を穿うがち、かごむしろの類に土を受け
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
天滿與力てんまよりきは、渡船とせんもどしてみたけれど、ほとんど片足かたあし餘地よちもないので、腹立はらだたし舌打したうちして、みぎはつてゐたが、やがてたかく、とらえるやうにこゑげると
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
印刷局いんさつきよく貴婦人レデイに到るまで随喜ずゐき渇仰かつがうせしむる手際てぎは開闢以来かいびやくいらい大出来おほできなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
先を争って天幕テントりまわすと、手に手におこういたり、神符しんぷを焼いたりして崑崙山神の冥護めいごを祈ると同時に、盛大なお茶祭を催して、滅亡ほろびた崑崙王国の万霊を慰めるのだそうですが
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)