馬丁ばてい)” の例文
馬丁ばていを連れていないので、別手組のひとりはここに馬の番をしていることになって、他のひとりが異人たちを案内して坂を昇って行きました。
半七捕物帳:58 菊人形の昔 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ただ私の馬のかいばさえいただきませば、給料なぞはくださらなくともたくさんです。」と言いました。そして馬丁ばていにやとってもらいました。
黄金鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
何処の商店でも同じように、われ/\ぐらいの年配の小僧は、ていのいゝ労働者であって、日がな一日、体を激しく使う事は、車夫しゃふ馬丁ばていと殆んど択ぶ所はない。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二台の馬車に、客はマバラに乗り込みぬ、去れど御者も馬丁ばてい悠々いう/\寛々くわん/\と、炉辺に饒舌ぜうぜつしつゝあり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
もしも何人なんぴとか彼を見た者があるとすれば、それは馬丁ばていとも次男ともつかない孤独の召使の男である。
その中の一人がしつこく馬車の後ろの馬丁ばてい台に乗っかって来るのを見つけた馭者が、いきなりそれを鞭でひっぱたいた。馬車は石ころに跳ねあがりながら駈けて行った。
双互にただ黙会したのに過ぎないから、乞う、両位の令妹のために、その淑徳を疑うことなかれ。特に君が母堂の馬丁ばていと不徳の事のごときは、あり触れた野人の風説に過ぎなかった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
例えば私は少年の時から人を呼棄よびすてにしたことがない。車夫、馬丁ばてい人足にんそく小商人こあきんどごとき下等社会の者は別にして、いやしくも話の出来る人間らしい人に対して無礼な言葉を用いたことはない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
つまりそれなら馬車会社の馬丁ばていになるのがこの人の理想にかなっている。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
人の許諾をずして吾妻橋あずまばし事件などを至る処に振り廻わす以上は、人の軒下に犬を忍ばして、その報道を得々として逢う人に吹聴ふいちょうする以上は、車夫、馬丁ばてい無頼漢ぶらいかん、ごろつき書生、日雇婆ひやといばばあ、産婆
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
馭者ぎょしゃが二人、馬丁ばていが二人、袖口そでぐちえりとを赤地にした揃いの白服に、赤いふさのついた陣笠じんがさのようなものを冠っていた姿は、その頃東京では欧米の公使が威風堂々と堀端を乗り歩く馬車と同じようなので
十九の秋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
堀の乗つてゐた馬が驚いてねた。堀はころりと馬からちた。それを見て同心等は「それ、おかしらが打たれた」と云つて、ぱつと散つた。堀は馬丁ばていに馬をかせて、御祓筋おはらひすぢ会所くわいしよ這入はひつて休息した。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
山猫馬丁ばていにつきあたり
ポラーノの広場 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
馬車の馬丁ばていもあわてて手綱をひき留めようとしたが、走りつづけて来た二頭の馬は急に止まることが出来ないで、私の上をズルズルと通り過ぎてしまった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)