飛退とびすさ)” の例文
「おお、つめてえ。老人としより冷水ひやみずたまったもんじゃねえ。」とつぶやきつつ、打仰ぎて一目見るより、ひええ! とって飛退とびすさり、下駄を脱ぎて、手に持ちはしたれども
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もう一つ、平次には不思議な手練があって、むつかしい捕物に出くわすと、二三間飛退とびすさって、腹巻から鍋銭なべせんを取出し、それを曲者の面体めんてい目がけてパッとほうり付けます。
見るより三加尻茂助は飛退とびすさおのれ重四郎助太刀の案内あんないするといつはりて此所へ我々を引出しだまうち卑怯至極ひけふしごくなり其儀ならばと一刀引拔討て掛るを重四郎心得たりと身をかはし二うちうち打合うちあひしがすき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「姿を映して見るものなり、御僧おんそうも鼻を映して見たまえかし。」といいさま鏡を差向けつ。蝦蟇法師は飛退とびすさりて、さも恐れたる風情にて鼻を飛ばして遁去にげさりける。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さすがに尻餅はつきませんが、顔色を変えて飛退とびすさりました。御家人ごけにんの竹といってちょっと好い男、ただし、元は武家の出だというせいか、妙に人付きのよくない、飯田町中の嫌われ者でした。
ジャムは二三尺飛退とびすさって、こちらを向いて、けろりとしたが、駈出かけだして見えなくなった。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何い、商売がどうしたと。」大喝一番腕まくりして向いきたるに、ぎょっとして飛退とびすさり、怨めしげに法会をながめて多時しばしは去りもやらず、彼がその日の収入におおいなる影響あればなり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紙片かみきれは寸断し去ってたもとに葬り、勝手もと退さがらんと歩みきたる、片隅の闇中くらがりより、黒きもの、ぬっとづ。お秀「きゃっ!」と飛退とびすされば、とんきょう声で「ばあっ。」と驚かす。からぬ洒落しゃれなり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、はんの樹から出て来ながら、ひょい、とあとへ飛退とびすさった。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)