風下かざしも)” の例文
「あら、そんなことございませんわ」といましたがなにぶん風下かざしもでしたから本線ほんせんのシグナルまで聞こえませんでした。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
たたずんだ所は風下かざしもになっているが、頭の上では、ほばしらからたれ下がった索綱さくこうの類が風にしなってうなりを立て、アリュウシャン群島近い高緯度の空気は
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
祖母の寝物語によると、君子は摂津せっつの国風平かざひら村とか風下かざしも村とかで生まれたということであるが、いまは村の名や、国の名さえ君子の記憶にはなくなっている。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
己は今風下かざしもの海岸に浮いている情ねえ老いぼれ船みてえなもんだから、そのラムが飲めねえとなれぁ、ジム、お前にたたるぞ。それからあの医者の阿呆にもな。
ひとしきり、風が西へ変ったころは、この辺、風下かざしもになったので、附近のやしきでは、火の粉をおそれ、避難の準備に恟々きょうきょうとしていたものだが、曲直瀬道三は
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その逆潮流が私どもをフリーメンの風下かざしもの方へ押し流し、そこで運よく投錨とうびょうすることができたのでした。
橇犬そりいぬにみつけられては、なにもならないから、風下かざしもからしのびこむことにする。この風で、風下からゆくのはつらいだろうけれども、どうか皆がんばってくれ」
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
船は、すっかり方向がわからなくなってしまって、船長でさえも、風下かざしものある島のかげへ来るまでは、どこをどう進んでいるのか、かいもくわからないというほどでした。
つゞいて、「中六なかろく火事くわじですよ。」とんだのは、ふたゝ夜警やけいこゑである。やあ、不可いけない。中六なかろくへば、なが梯子はしごならとゞくほどだ。しか風下かざしも眞下ましたである。わたしたちはだまつてつた。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かつてこの都会が東西交通のしょうであった時代に、遠くこの風の風下かざしもの方から、さすらえて来たと称する女たちが、しばしばこういう歌を唱えて旅人の哀れみを誘おうとしたので
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
C この辺は風下かざしもですから、急いでマスクをつけて下さい。
風下かざしもの火事のけぶりを浴びながら。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
その声は風下かざしものシグナレスにはすぐ聞こえましたので、シグナレスはこわいながら思わずわらってしまいました。さあそれを見た本線ほんせんシグナルつきの電信柱のおこりようと言ったらありません。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
青白く逆上のぼせてしまいくちびるをきっとかみながらすぐひどく手をまわして、すなわち一ぺん東京まで手をまわして風下かざしもにいる軽便鉄道けいべんてつどうの電信柱に、シグナルとシグナレスの対話たいわがいったいなんだったか
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)