雲表うんぴょう)” の例文
いわばその二つの主峰は、一時雲に隠れていたものが、ふたたびその健在な姿を、巍然ぎぜんと、雲表うんぴょうにあらわしたものといっていい。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ソラ、天狗様の御立腹だ」と、一同は眼玉をまるくする。ヌット雲表うんぴょう突立つったつ高山の頂辺てっぺんの地震、左程の振動でもないが、余りい気持のものでもない。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
「この辺ではこういう池をと言います。もっと大きいのがこの向うにありますが、小さいのに至っては数限りありません。彼の雲表うんぴょうに聳える富士の白雪が……」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
番人は鑑札を検してから、はじめ慇懃いんぎんことばを使うのである。人が雲表うんぴょうそびゆる岩木山いわきやまゆびさして、あれが津軽富士で、あのふもとが弘前の城下だと教えた時、五百らは覚えず涙をこぼして喜んだそうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
大塔ノ宮の名は、敵にも味方にも、なにか雲表うんぴょう震雷しんらいみたいな畏怖と神秘感をもたれ、そのうごきには関東方など、神経質にまでなっている。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見渡せば、群を抜ける八溝山の絶頂は雲表うんぴょうそびえ、臣下のごとき千山万峰は皆眼下に頭を揃えている。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
雲表うんぴょうにある駒ヶ岳は、その広いすその一つの波ともいえる丘に足を休めている一人の旅人へ、何か無言のことばをかけているように、鮮やかに仰がれた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「雲の柱が彼方の山岳をかすめて、すさまじく立ち昇ったかと見えた。だが、雲表うんぴょうの神秘、自然の迅速、誰かよく、その痕跡こんせきをとらえて実証できよう」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どこまで高いかとあおむいてみると、四方の樹林じゅりんをつきぬいて、奇怪きかいえだをはっている。白いきりがきたときは、その木の半分以上はんぶんいじょうは、まさに雲表うんぴょうに立っている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いやいつのまにか彼は、鷲ヶ岳という山が石舟斎そのもののような気がして来て、遥か雲表うんぴょうから、自分の意気地なさを、あざけり笑われているかのような気がするのだった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて雲表うんぴょうに臥牛山の肩が見えだす。次の日にはその麓路へさしかかっていた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
声いッぱい、あなたの雲表うんぴょうへ、お綱は呼びかけてみたかった。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雲表うんぴょうをぬいて南に見えるのは富士ふじである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)