雑用ぞうよう)” の例文
旧字:雜用
さて掙人かせぎにんが没してから家計は一方ならぬ困難、薬礼やくれいと葬式の雑用ぞうようとにおおくもない貯叢たくわえをゲッソリ遣い減らして、今は残り少なになる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
相撲が近所で興行する、それ目録だわ、つかいものだ、見舞だと、つきあいの雑用ぞうようを取るだけでも、痛む腹のいいわけは出来ない仕誼しぎ
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼等の貧乏時代は、茶屋の掛行燈かけあんどんなど引受け、がむしやらに雑用ぞうよう稼ぎをして、見られたざまではなかつたのを、この頃はすつかり高くとまり、方外の画料をむさぼる。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
身狭乳母むさのちおもの思いやりから、男たちの多くは、唯さえ小人数な奈良の御館みたちの番に行け、と言ってかえされ、長老おとな一人の外は、唯雑用ぞうようをする童と、奴隷やっこ位しか残らなかった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
港々の雑用ぞうように預った金だが、浦賀奉行と御判物と尾張様の御船印さえあれば、どこの津へ漂い着いても、雑用には事欠くことはないから、これを皆で分けることにする。
重吉漂流紀聞 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しかし、吉原で大兵庫屋の花魁を請け出すという以上は、何かの雑用ぞうようを見積もって、まず千両仕事であるらしく思われた。その話を聴いて、治六も同じく首をかしげた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
妙子がていた十日ばかりの間の薬餌やくじを始め附添人の食い雑用ぞうようなどでも、随分厄介やっかいを掛けているはずで、細かいことを云えば、医者の送り迎えをした自動車代、運転手への心付け
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
だがここなら嘲弄ちょうろうもされず、午前八時から午後四時まで、与えられた仕事をすればいい。僅かな雑用ぞうようを取られるだけで寝起きも只、風呂も、医者までも只だし、稼いだだけは自分の物になる。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それからお父さんは伯父さんから手紙が来た時又面倒な八釜やかましやが御出おいでになるんだなといった事、けれどもお母さんは聾耳つんぼは滞在中の雑用ぞうようを払うから、伯母さんよりか始末が善いといった事
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
このお雛様の節句と来た日にゃ、演劇しばいも花見も一所にして、お夏さんにかかる雑用ぞうよう、残らず持出すという評判な祭をしたもんですッさ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やはり町内の雑用ぞうようを勤めているのであった。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
入用いらざ雑用ぞうようを省くと唱え、八蔵といえる悪僕一人を留め置きて、その余の奴僕ぬぼくことごとく暇を取らせ、素性も知れざる一人の老婆を、飯炊めしたきとして雇い入れつ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雑用ぞうよう宿のついえに、不機嫌な旦那に、按摩あんまをさせられたり、あおがせられたり。濁った生簀いけすの、茶色の蚊帳でまれて寝たが、もう一度、うまれた家の影が見たさに、忍んでここまで来たのだ、と言います。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)